しろありNo.167
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17Termite Journal 2017.1 No.167大阪市立大学大学院生活科学研究科 土井 正第59回全国大会パネルディスカッション報告これからの蟻害,腐朽検査 〜シロアリ業界への期待〜報文Reports 本パネルディスカッションは, 平成28年11月4日にホテル長崎において開催された公益社団法人日本しろあり対策協会(以下, 白対協とする。)第59回全国大会において行われた。パネリストは,登壇順に長崎県土木部住宅課課長補佐 森泉氏, 一般社団法人住宅リフォーム推進協議会業務部長 小坂和弘氏, 一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会事務局次長 小野義和氏の3氏である。コーディネーターは白対協副会長として土井正が担当している。1. はじめに 品確法に基づく既存住宅の性能表示制度の要請に応えて協会は, 平成14(2002)年に蟻害・腐朽検査員(現蟻害・腐朽検査士)制度を創設した。既存住宅の性能表示制度は金融税制面での支援策が不十分なため, 中古住宅購入者のメリットが不明なことから十分に活用されていないことや, 検査員が防除処理業務から排除されるなどの制約があった。そこで, 協会版の蟻害・腐朽検査を行い, 蟻害・腐朽検査士がハウスインスペクターとして活躍できるようなシステム, 協会版蟻害・腐朽検査制度を新たに設けている。 協会版蟻害・腐朽検査診断は蟻害・腐朽を主たる対象に非破壊検査によって被害状況を確認するとともに, 建物の全体的な劣化環境調査を実施することになっている。床下及び小屋組みの現況調査は蟻害・腐朽だけでなく構造安全性についても多くの情報を得ることができるものである。今日の木造住宅, とりわけ在来軸組構法では構造部材の接合部の健全性が構造耐力の要である。ところが, これら接合部は室内側からは目視点検できない部位となっている。また, 雨漏り箇所の認知など建物の防水性能の維持についても重要な情報を得ることができるのである。これらの重要な情報は既存住宅の維持保全における大きな位置を占めており, この情報を建築サイドと共有できるシステムを構築することで, 初めて蟻害・腐朽検査士がハウスインスペクターとして機能することになると考えられる。 協会版蟻害・腐朽検査制度の有効性を広く世間に周知し活用していくためには, 有資格者の拡大が不可欠であり, そのため, 蟻害・腐朽検査士の受験資格をしろあり防除施工士を有する者だけでなく, 建築士にも開放することとなった。当然ながら建築士はその職能として耐震診断をはじめ, 様々な建物状況調査に従事している。後述のように, 新しい住生活基本計画では中古住宅の活用のためには建築物の現況を調査把握するインスペクションがますます重要になっている。これまで, 建築業界におけるインスペクションと白対協の蟻害・腐朽検査との間の交流が十分行われていないことから, 実施する内容についての共通点や相違点も必ずしも明確になっていない。社会の要請に応えるには, お互いが協調して対処していく必要があり, 今回のパネルディスカッションが企画された。2. 住生活基本計画 平成18年6月, 本格的な少子高齢社会, 人口・世帯減少社会の到来を目前に控え, 現在及び将来 の国民の「豊かな住生活」を実現するため, 住生活基本法(平成18年法律第61号)が制定された。これを受けて, 平成18年9月に住生活基本計画(全国計画)が平成27年度までの計画期間として策定された。平成28年3月18日, 住生活基本法第15条第1項に規定する国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画として, 新しい住生活基本計画(以下, 基本計画とする。)が平成28年度から平成37年度までを計画期間として, 閣議決定されている。 今回のパネルディスカッションに先立ち, 国土交通省住宅生産課課長 真鍋純氏により, 基本計画における施策の基本的な方針の3つの視点, 8つの目標から, 住宅ストックからの視点における「住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築」, 「建替えリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新」, 及び「急増する空き家の活用・除却の推進」という3目標についての基調講演が行われ, パネルディス

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