しろありNo.167
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52Termite Journal 2017.1 No.167る捕獲記録とこれらの甲虫類の1996年から2014年までの定着の有無を比較することで, 国境検査による捕獲と発生の相関関係を検討した。その結果, 20年間で韓国国境において65,988件(500種)の捕獲記録があった。一方, ゾウムシ科およびハムシ科に属する8種は, 同期間内での発生が記録され, 定着していると考えられているものの, 検疫による捕獲記録はなかった。この原因として, これらの種が国境検査の対象とならない経路で侵入してきたか, またはこれらの種が正確に同定されず, 記録・報告として残らなかったことが考えられる。この結果は, 国境検査による捕獲記録が将来的な外来種発生の予知に有用であるという予測に反するもので, 正確な発生予測のための異なるデータ収集法を検討する必要性が浮上した。 Simon Cragg博士(ポーツマス大学)は「潮間帯および亜潮間帯に生息する食材性節足動物の消化機構」について解説した。海水中の木材は様々な節足動物によって食害される。潮間帯上部では, 水陸両生ゾウムシPselactus spadixやカミキリモドキ科の1種Nacerdes melanuraが固定構造物における腐朽木材に穿孔する。潮間帯下部では, 非腐朽木材を摂食できる海水性甲殻類が木材に営巣する。本研究では, 等脚(ワラジムシ)目キクイムシ科と端脚(ヨコエビ)目キクイモドキ科が腸内共生微生物を利用せずに木材を消化する機構の解明を試みた。木材は口器で細かく分断され, その粒子は胃に蓄積される。肝膵臓の盲端の突出部はフィルタを有する開口部を通じて胃につながっている。この突出部は筋繊維で覆われており, 後腸にも環状筋, 斜走筋, 縦走筋が備わっている。このような筋肉組織が肝膵臓と後腸の間の液体移動を効率化していると推測された。トランスクリプトーム解析によって, 肝膵臓にて支配的な細胞型が多種の酵素, 特にグリコシドヒドロラーゼ(GHs)のうち, CAZy糖質関連酵素データベースでファミリーGH5, 7, 9, 30, 35に分類される酵素を生成することが明らかとなった。これらの酵素は, 昆虫に内在するGHsをはるかに凌ぐ活性を有している。キクイムシ科とキクイモドキ科はともに, セロビオヒドロラーゼとして機能するGH7を多量に生成し, セルロース鎖末端からセロビオース単位を切断する。キクイムシ科の1種Limnoria quadripunctataにおいて非相同発現したGH7タンパク質を構造解析し, 機能特性が明らかになった。 Lina Nunes博士(ポルトガル国立土木研究所)のテーマ「甲虫類と乾材シロアリ:南ヨーロッパの建築物の危機要素」は, 本人不参加のためBrian Forschler博士により紹介された。乾燥状態においては, 主にカミキリムシ科およびシバンムシ科の甲虫類が木材の劣化をもたらす。さらに, 近年レイビシロアリ科の乾材シロアリ類の重要性も高まっている。本発表では, 南ヨーロッパに生息する甲虫類および乾材シロアリ類の重要性が議論された。この新たな現状では, 移入種, 特に乾材シロアリCryptotermes brevisが猛威を振るっている。C. brevisの原産地は南アメリカの太平洋沿岸の砂漠地帯であることが分かっているが, 二次的な導入によって分布域は拡大し, 南極大陸を除く全大陸でみられる。ヨーロッパにおいてはC. brevisはスペインやポルトガルなどで記録されている。これらの特定の地域では, 移入木材害虫種の建築物への影響から, 木材の利用形態が大きく変化している, とのことであった。 Dan Suiter博士(ジョージア大学)は「アメリカ合衆国ジョージア州グリフィンの構造物におけるシバンムシ(Euvrilletta peltata)食害」について講演した。シバンムシ科の1種Euvrilletta peltataはアメリカ東部の広い地域において, 構造部材として使用される木材の害虫である。本種の食害は, 特に空き家や別宅の床下スペースの高含水率構造材にて発見される。成虫は晩春から初夏にかけて食害材より脱出し, 交尾・産卵を行う。幼虫は木材に再侵入し, 辺材部を食害する。防除業者は一般的にホウ素含有薬剤を使用し, 幼虫の駆除と食害再発の予防を行う。本研究では, ジョージア州グリフィンの家屋にて食害された構造部材を複数の薬剤(Talstar(ビフェントリン含有), Premise(イミダクロプリド含有), Timbor(八ホウ酸ナトリウム四水和物(DOT)含有), Bora-Care(DOT含有))を用いて処理し, 成虫の脱出パターンを4年間モニタリングした。その結果, 無処理(コントロール)材では成虫の脱出が5月下旬より始まり, 6月第1週から第3週にかけてピークを迎えた。急性毒剤であるビフェントリンとイミダクロプリドは成虫の脱出や再侵入を抑制できなかった。経口毒剤であるDOTによって脱出は阻止され, 成虫はDOT処理材に再侵入することはなかった。DOTを用いた被害材の一面処理では, 無処理面での脱出は阻止されなかった。

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