しろありNo.167
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53Termite Journal 2017.1 No.167 神崎菜摘博士(森林総合研究所)は「シロアリ関連線虫相と宿主・キャリア生息地の関係」について報告した。シロアリは他の微生物との関連が深い。これらの微生物のうち, 線虫については, シロアリの科によって種組成が異なることが近年報告されている。すなわち, レイビシロアリ科関連の線虫相はミゾガシラシロアリ科やシロアリ科と明らかに異なっている。しかし, 乾燥木材に生息する基部群レイビシロアリ科と, 多湿を好む派生分類群ミゾガシラシロアリ科・シロアリ科の比較では, 関連線虫相の決定因子が生息環境選好性であるか系統学的位置であるかは明らかにならなかった。そこで, 比較的湿潤した木材に生息する原始的分類群オオシロアリ科の1種オオシロアリの関連線虫相を調査した。鹿児島県奄美大島の1コロニーから採取した職蟻80頭を水洗し, 2.0%寒天培地上で解剖・展開して線虫を増殖させた。線虫は光学顕微鏡下で観察し属レベルで同定した。その結果, Halicephalobus sp., Bunonema sp., Diplogastrellus sp., Aphelenchoides sp.の4種が分離された。オオシロアリにおけるこのような線虫相は, レイビシロアリ科よりもミゾガシラシロアリ科やシロアリ科に近い。オオシロアリ科が最も基部で分岐し, 次いでレイビシロアリ科および他の2科が分岐するという系統学的関係を考慮すると, 線虫相はシロアリの系統学的位置よりも生息環境選好性に依存すると推測された。 井手竜也博士(森林総合研究所)は「LAMP法およびNested PCR法による虫粉・虫糞を用いた外来乾材害虫種の同定」に関する成果を発表した。ヒラタキクイムシ類(Lyctus spp.)やアメリカカンザイシロアリ類(Incisitermes spp.)などの昆虫は, 木材の輸出入や運搬に伴い分布を広げており, 乾燥木材の移入害虫として世界的に知られている。新規移入地にて, これらの害虫種を早急に探知し正確に同定することは, その根絶のために不可欠である。しかし, これらの種は木材の奥深くに隠れて生息するため, 形態的な同定を行うための成虫標本を入手することは困難である。本研究では, Lyctus属およびIncisitermes属の数種の虫粉を使用し, 種レベル同定のための迅速な分子検出・同定手法を検討した。ヒラタキクイムシL. brunneusおよびアメリカカンザイシロアリI. minorの種特異的プライマーは, それぞれCOI領域および16S領域の部分配列を基に設計した。ナガシンクイムシ科3種(L. brunneus, L. africanus, Sinoxylon conigerum)およびレイビシロアリ科3種(I. minor, I. schwarzi, Neotermes koshunensis)の成虫のDNA抽出物および虫粉を鋳型として, Loop-mediated isothermal amplication(LAMP)法およびNested PCR法よる種特異的DNA増幅試験を行った。その結果, 設計したプライマーによって, 虫粉から害虫種を同定することに成功した。 大村和香子博士(森林総合研究所)は「シロアリ検出用非接触型AEセンサの性能評価」と題する講演を行った。シロアリ診断は一般的に目視可能な生体や死骸, 有翅虫の翅, 虫糞, 食害材中の孔道, 蟻道などを, または可聴音(タッピング音や摂食音)を手がかりにして行われる。これらの診断方法には, 相当な訓練と経験を積んだ防除士の育成が必要となる。そのため, 簡易で信頼性の高い診断技術がシロアリ防除業界にて求められている。発表者らは非接触型アコースティック・エミッション(AE)センサを開発し, 実験室条件下にてイエシロアリの食害検出試験を行った。さらに, 市販の接触型AEセンサと性能を比較することで, 非接触型AE検出器の有効性を検討した。職蟻100頭と兵蟻10頭をスギ角材の中央にあけた穴に入れ, 角材をAE計測系に接続した。その結果, 摂食行動に対応するAEが検出され時刻によってAE事象数には大きな変動がみられた。非接触型AEセンサの性能向上にはさらなる改良が必要である。 筆者である渡辺祐基(京都大学)は, 「チビタケナガシンクイの幼虫の発育・摂食活動および蛹化のX線CTおよびAE法による非破壊評価」について報告した。チビタケナガシンクイは日本において伝統的木造建築などに使用される竹材の主要害虫である。本研究では, X線CTおよびアコースティック・エミッション(AE)法を使用して本種の孵化から蛹化までの発育や食害行動を非破壊的に観察・解析した。雌成虫によってろ紙層間に産み付けられた卵を採取し, 実験に使用した。孵化直後の1齢幼虫をマダケ小片に個々に接種し, X線CT撮影用およびAE計測用の試料を調整した。前者は3〜5日ごとに分解能19〜60μmでX線CT撮影を行った。後者は, AEセンサ(共振周波数150kHz)を接着して連続的にAE計測を行い, 摂食活動に由来するAE事象数を記録した。その結果, CT画像において幼虫の成長過程や穿孔の延伸過程が観察できた。穿孔の長さおよび径を測定することで, 竹材摂食量が定量化

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