しろありNo.167
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5Termite Journal 2017.1 No.1675図3 No.1(黒)およびNo.2(白)における脱皮後0−1, 2−3, 4−5日目のDD, JHAMT, CYP15A1の発現量(平均値 ± S.D., n=6)(Yaguchi et al. 2015を元に作図)。内部標準遺伝子には翻訳伸長因子(EF1α)を用い, No.1の脱皮後0−1日目を1としたときの相対発現値を示している。各カラム上の異なるアルファベットは, 有意差があることを示す(two-way ANOVA followed by Tukey’s test, p < 0.05)。遺伝子は, カイコガを中心に明らかになっており30), ネバダオオシロアリのゲノムにも存在することが予測されている22)。JH合成経路の中でも, 後期過程の最終ステップを担う酵素遺伝子であるJH酸メチル基転移酵素(JH acid metyl transferase: JHAMT)とシトクロームP450の一種であるエポキシダーゼ(CYP15A1)の2遺伝子は, 体内JH量の変動に大きな影響を及ぼす。例えば, サバクトビバッタSchistocerca gregariaでは, JHAMTのRNA干渉(RNAi)法を用いた遺伝子ノックダウンにより, アラタ体でのJH合成が減少することが明らかになっている31)。同様に, セイヨウミツバチにおいても, JHAMTのRNAiにより体内JH量の減少が確認されている32)。CYP15A1は, ゴキブリ科の1種Diploptera punctataにおいて, メチルファルネシル酸をエポキシ化することで活性型JHの合成を触媒する酵素であることが示されている33)。また, サバクトビバッタでは, CYP15A1のRNAiによりアラタ体でのJH合成量が減少することが報告されている31)。そこで筆者らは, JH合成経路を構成する各遺伝子群に注目して, それらの発現パターンを調べることで, 自然条件下での前兵隊分化過程における体内JH量の変動パターンを推察した34)。 人為的に作製した初期巣を用いて, No.1とNo.2が3齢に脱皮して0から5日目までの個体を2日ごとに回収し, トータルRNAの抽出とcDNAの合成を行っbcd d a cd ab bc 0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 a a a ab b b v v v v a aa a a相対発現量 JHAMT CYP15A1 0-12-34-5No. 1 No. 2 2.0 1.0 0 80 60 40 20 0 b 0-12-34-50-12-34-5脱皮からの日数 DD た。解析対象とした酵素遺伝子は, 本種のJH生合成経路(図2)のうちの13遺伝子であり, リアルタイム定量PCR法を用いて発現解析を行った。その結果, 前期過程に属する遺伝子では, DDの発現レベルがNo.2よりもNo.1で有意に上昇していた。後期過程に属する遺伝子では, JHAMTがNo.1の脱皮後2−3日目, CYP15A1が脱皮後4−5日目において, No.2よりも高発現していた(図3)。上述したように, 他種の昆虫では, これらの遺伝子の発現レベルが体内JH量に強く影響を及ぼすので, No.1の脱皮後2日目から5日目頃までに体内JH量が上昇することが推察される。これらの遺伝子の発現が上昇する時期は, No.1が生殖虫の腸内容物の栄養交換を高頻度で受ける時期と重なる21)。セイヨウミツバチをはじめ多くの昆虫では, 体内の栄養状態とJH量には密接な関係があることが報告されている。したがって, 生殖虫から頻繁に受け渡される腸内容物により, No.1の栄養状態が良くなることでJH合成遺伝子の発現が活発になり, 結果としてJH量が上昇する可能性がある。6. 栄養交換行動を制御するドーパミン No.1のJH生合成遺伝子JHAMTとCYP15A1の発現レベルの上昇は, 生殖虫との栄養交換頻度が上昇する時期とほぼ一致した。したがって, No.1から前兵隊への分化には, 生殖虫との栄養交換行動を制御する因子

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