しろありNo.174
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的なシロアリ種における解析を進め, ゲノム解析の候補対象とする, 共進化した細菌を特定する。シロアリの消化プロセスは, いわば反芻動物の消化プロセスと同じシステムといえる。反芻動物も菌床栽培シロアリも, どちらも2回の発酵を利用している。まず, 最初の発酵はそれぞれ次の様なものである。反芻動物では最初の発酵は前胃で行い, 主要なエネルギー源となる短鎖脂肪酸を生産し, およそ4日後には未消化の繊維や細菌性タンパク質を排出し次の発酵へ引き継ぐ。菌床栽培シロアリでは最初の発酵は菌園にてアミノ酸を生産しながら行われ, およそ45日後に糖・ヘミセルロース・セルロース・菌体が次の発酵へ引き継がれる。次に, ふたつ目の発酵はそれぞれ次の様なものである。反芻動物では発酵を後腸で行い, 短鎖脂肪酸を生産し, 不要なカスは糞便として排出される。菌床栽培シロアリでは発酵をシロアリ腸内で行い, 短鎖脂肪酸を生産し, 不要なカスは糞便として排出される。なお, 菌床栽培シロアリではこれらの2回の発酵プロセスの前に, リターを食べて3.5時間程度以内に排出し, 菌床栽培のために用いるという前工程がある。さらに, 非反芻動物ではタンパク質の消化は胃・同化は小腸で行われるが, 反芻動物では摂取するタンパク質は微生物によって同化されており, この点でも菌床栽培シロアリは反芻動物の特徴を備えている。反芻動物型の消化をシロアリが持つことには, 餌を大量に食べた現場から離れることができるので捕食者から逃れることが可能であるとか, 食餌の多様性に応じて生成されるアミノ酸の組成を変えられるとか, 1回目の発酵工程で有毒であったり食べにくかったりする食餌の分解がなされる利点があるという仮説が考えられている。これらのことから, 菌床は, 体外にある外部反芻組織ともみなせる。1313[03] シロアリの生物学的研究のモデルとしての[04] シロアリの菌床栽培は反芻動物の消化システムのよう?Termite Fungal Cultivation as a Ruminant-like Digestive System?Chun-I Chiu (National Chung Hsing University, Taiwan) 菌床栽培シロアリは, 共生真菌のTermitomyces spp.のおかげで木材や植物枯死体を分解できる。菌床栽培CoptotermesのハイブリッドCoptotermes Hybrids as a Model to Study Core Aspects of Termite BiologyThomas Chouvenc (University of Florida, USA) Coptotermesは世界的に重要な害虫のひとつであり, 中でも, 中国本土と台湾に自生し日本・ハワイ・米国南部に広がっているCoptotermes formosanusと, 東南アジア原産で世界中のほとんどの熱帯地域に広がっているCoptotermes gestroiは, 強い侵入能力を持っている。両種の兵蟻の形態はよく似ているが, 泉門(fontanelle)の両側にある剛毛(setae)のペアの数で識別できる。かつて両種は分散飛行の時期が異なっていたが, フロリダ南東部において2013年以来は, 分散飛行の時期が重複していた。南フロリダのフィールドでは, 雄のC. gestroiと雌のC. formosanusの種間での交尾行動が観察され, これを研究室で育てたところハイブリッドコロニーが形成された。研究室では2013年から毎年ハイブリッドコロニーを確立している。ハイブリッドコロニーは, 遺伝子移入における基礎的なシロアリの生物学と進化過程に関する良いモデルとなることから, ここでは, ハイブリッドモデルを用いて行われている現在の研究の概要を示す。ただしハイブリッドコロニーが有翅虫を生産できるのかどうかは現時点ではわかっておらず, 動物のラバのように繁殖力は無い可能性もある。またハイブリッドシロアリの分布可能な範囲や, 害虫としての度合いについても今後の調査が必要である。さらにハイブリッドコロニーは, シロアリ腸内の原生動物の伝播メカニズムのモデルともなりうる。また, Coptotermesの交尾行動に関係する外皮線や化学物質はよくわかっていないが, 異種間交尾行動の解析がこれらを解決する機会となりうる。◆セクション1:多様性と分類◆Section 1: Biodiversity and systematics of termites[05] シロアリ種同定における形態学的特徴に存在する難題: これに対処するための課題と取り組みMorphological Characters Conundrum in Termite Species Identification: The Challenges and Effort to Address the Problems Anugerah Fajarら8名 (Indonesian Institute of Sciences (LIPI), Indonesia) シロアリの種を同定する際には形態学的特徴が用いられるが, 特徴の認識は観察者に依存するところもあるため, 評価者ごとに異なる種識別の判断が下されているという問題が存在する。この研究では, 実際に

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