究では, インクラインの摂食を解明することを目的として, 巣の組成の物理化学的な分析や, NとCの安定同位体解析と, ビルダーやインクラインの腸内細菌叢解析を行った。その結果, (i)ビルダーのみが生息する巣とインクラインも生息する巣では物理化学的性質が異なっている, (ii)安定同位体解析からインクラインは巣材を食べている, (iii)インクラインの腸内微生物叢は主なビルダーのひとつであるLabiotermes labralisに最も類似している, (iv)巣材には窒素固定細菌が存在する, といったことが示唆された。他種類のビルダー宿主に営巣できる万能性を持ち, 巣材に存在する細菌との外部共生関係を持っていることが, インクラインが生態学的な成功を治めている理由かもしれない。2323[P03] シロアリの謎の科Stylotermitidaeの Intestinal Protists of the Enigmatic Termite Family Stylotermitidae (Insecta: Blattodea) and its Phylogenetic Position Kai-Yuan Liuら4名(National Chung Hsing University, Taiwan) 系統的にRhinotermitidaeとKalotermitidaeの間に位置するStylotermitidaeは, 化石の2つの属と現存するひとつの属Stylotermis(45種)から構成され, 木材分解に関する腸内原生生物を保持している。シロアリと原生生物の関係は白亜紀初期にまで遡るが, シロアリと原生生物の間の共進化において, 原生生物の系統樹は必ずしも宿主シロアリと一致しているわけではない。この研究では, Stylotermes halumicusとその原生生物について次世代シーケンサーを用いたSSU rRNA解析を行ったところ, HypermastigoteのPseudotorichonymphaが見つかった。シロアリS. halumicusの原生生物Pseudotrichonympha sp.は, シロアリProrhinotermes simplexの原生生物P. peartiに95.34%で最も相同性が高く, 顕微鏡下での観察では原生生物中の大多数を占めていた。生きている木材を食する謎の生態を持つStylotermitidaeにおけるセルロース分解にPseudotrichonympha sp.が主要な働きをしていることが示唆された。Pseudotrichonymphaは, RinotermitidaeとArchotermopsidaeには存在しているがKalotermitidaeにはいないことから, シロアリの原生生物相の違いは, 木材だけを食べているKalotermitidaeから木と土の両方を食べるRhinotermitidaeへの生息場所の転換が鍵となっているのかもしれない。腸内原生生物とその系統学的位置[P04] シロアリの腸内における真菌群集の構成は The Assembly of Fungal Communities in Termite Guts is Affected by Diet and Taxonomy Lucia Zifcakovaら4名(OIST, Japan) シロアリの腸内共生生物は食餌の分解に必要であるが, シロアリの腸における真菌群集の役割についてはよく知られていない。この研究では, 真菌のふたつのマーカー(ITSとLSU)を用いて, 50種以上のシロアリにおいてシークエンスを行った。その結果, 下等シロアリでは真菌の多様性と量は低かったが, 土喰シロアリでは真菌の多様性が高く豊かであった。真菌Termitomycesはすべての菌床栽培シロアリ(Macrotermitinae)に予想どおり存在したが, これらのシロアリの真菌群集には, 予想に反してHypocrealesとPleosporalesの量が多かった。地衣類食シロアリと菌床栽培シロアリ, 下等シロアリは, 真菌群集叢が顕著に異なっていた。いくつかの真菌目ではサンプルの場所による影響を受けており, 例えば, 至る所に存在するEurotialesはアフリカのシロアリ腸内でしばしば特徴的に検出された。この研究は真菌群集相に関する初めての包括的な報告です。[P05] スマトラと西ジャワのCoptotermes属: Genus Coptotermes (Rhinotermitidae) in Sumatra and West Java: Morphological and Phylogenetic StudiesBramantyo Wikantyosoら5名(Kyoto University, Japan) 東南アジアの国々ではCoptotermes属のシロアリは都市害虫としてよく知られており, 経済的に重要な種であるが, 今日までインドネシアにおけるその分布は定かではない。この研究では, トランセクト法とカジュアルサンプリング法によって, 8地域(バタム, シムル, カリマンタン島, 西ジャワ州)からのサンプルを取得することに焦点を当て, 5種類のCoptotermes属のシロアリが採集できた。サンプルはミトコンドリアの12Sと16Sを増幅して配列を解析し, C. gestroiについては触角の節と頭幅の計測による形態学的な違いを観察した。Cipinag地域とSerpon地域のサンプルは, 頭部の特徴からふたつの異なるグループに分けられたが, 系統解析では同じクレードに属した。形態学的には異な食餌と分類群の影響を受けている形態学的および系統学的研究
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