しろありNo.174
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3434なった。このことは, シロアリ腸内微生物の機能は宿主自身の栄養への貢献にとどまらず, 宿主体外にも大きく影響することを示しており, 両者の相互作用を理解する上で新たな視点を提供するものである。図2  腸内微生物による巣内衛生への貢献。(A)日和見菌であるセラチア菌は, 巣内で増殖した際や免疫力の弱い個体に対しては病原性を持つ。感染した個体は体が赤色に着色し死亡する。バーは3mm。(B)腸内微生物を持たないシロアリはセラチア摂食後に周囲の環境中におけるセラチア菌の増殖を抑制できないが, (C)腸内微生物を持つ個体はセラチア菌の増殖を抑制できる。Inagaki and Matsuura 2018より改変。内微生物の新規機能の存在を示唆している。 次に, コロニー創設のプロセスに着目した。雌雄, 雌同士, 雄同士のペアを作成して創設虫の原生生物量及びタンパク質量と脂質量の変動を調べた。その結果, どのペアにおいても幼虫が孵化する創設後5, 6週目に原生生物量の顕著な増加と減少がみられた(図4)。この増減の後のタンパク質及び脂質量を比較すると, 幼虫の生まれない雄同士ではタンパク質・脂質量が増加していたのに対し, 雌雄ペア及び雌同士のペアでは減少していた(図4)。このことから, 創設虫は腸内原生生物量を増加させた後に消化し, 幼虫に投じる栄養としていることが考えられる。幼虫のいない雄同士においては自らの体に蓄えているのだろう。さらに雄単独, 雌単独で創設した場合にもこの原生生物量の増減と雄単独における栄養量の増加が確認されたことから, 単独個体においても原生生物量をコントロールすることが可能であることが示唆された。ヤマトシロアリの生活史において, 創設虫が繁殖のみならず労働を行う必要のある創設初期には繁殖虫も原生生物を持つが, 成熟コロニーにおいてはワーカーに木材の消化を依存して繁殖に特化し, 原生生物を失うというパターンが見出された。 最後にヤマトシロアリを含む4種のシロアリを採集・飼育し, 王・女王とワーカーの腸内微生物群集の違いを比較した。対象種としてはネバダオオシロアリ, オオシロアリ, イエシロアリ, ヤマトシロアリを用いた。ネバダオオシロアリ・オオシロアリは直列型と呼ばれるカースト分化経路を持ち, 個体の分化運命(繁殖虫(A)3. シロアリ腸内微生物群集のカースト特異性 シロアリのコロニーは, 雌雄の羽アリが巣を創設することで始まる。コロニー創設初期においてはワーカーが存在しないため, 羽アリは卵や幼虫の世話, 採餌, 巣の構築といった労働と繁殖の両方を行う必要がある。ワーカーが成長した後には, 採餌などの労働はワーカーが行い, 王や女王は繁殖に専念する繁殖分業が行われる。このように個体のタスクが大きく変化するシロアリの生活史において, 個体の持つ腸内微生物群集は大きく変化することが予測される。本研究ではまずヤマトシロアリに着目し, 成熟コロニーにおける腸内微生物群集のカースト特異性及び創設時の羽アリにおける腸内原生生物量の動態を明らかにした。さらにカーストの発生経路の異なる4種を用いて, 繁殖虫とワーカーの腸内原生生物量を比較した。 まずヤマトシロアリの成熟コロニーを用いて, カースト間の腸内微生物群集を比較した。その結果, ワーカーは多くの原生生物を持っていたが, 王と女王の腸内には全く原生生物が存在していなかった。次に腸内細菌群集についてMiSeqを用いて比較したところ, 王と女王はワーカー・兵アリとは大きく異なる細菌を持っていることが明らかになった(図3)。この繁殖虫特異的細菌の中には未記載種が多く含まれており, 腸(B)(C)

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