島[沖縄諸島(沖縄島など), 先島諸島(宮古島, 石垣島, 西表島, 与那国島など)]にNeotermes属が分布しており4, 6), 森林や公園などの生きた樹木の枯死部でよく見られ7), 家屋害虫ではないが園芸樹種への加害が報告されている8)。これまで, 琉球諸島のNeotermes属はコウシュンシロアリ Neotermes koshunensis(Shiraki)として扱われてきた4)。コウシュンシロアリは, 今から約110年前の1909年に素木得一博士によって, 台湾で採集された標本に基づき新種記載された種で(種名はタイプ産地である恒春に因む)9), 中国南部にも棲息しているとされている1)。一方で, 琉球諸島のコウシュンシロアリとされてきたシロアリにおいて, 沖縄諸島の個体と先島諸島の個体の間には形態的な違いがあるとして(ただし, 少数のコロニーから採集された個体の比較に基づく), これらが別種である可能性も指摘されていた6)。さらに, 台湾のコウシュンシロアリと琉球諸島のコウシュンシロアリとされてきたシロアリとの詳しい比較は行われていなかった。そこで著者らは, 琉球諸島[沖縄諸島(沖縄島), 先島諸島(宮古島, 石垣島, 西表島, 与那国島)]と台湾[北部(北投, 士林), 南部(恒春)]でNeotermes属のシロアリのコロニーを採集し, 分子系統解析と形態解析を行った。1(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 矢代 敏久Reports1. はじめに シロアリは, 木造家屋を食い荒らす害虫として有名である。しかし自然生態系における彼らの本来の姿は, 木材などの植物繊維の主成分であるセルロースを栄養とする数少ない生物であり, 物質循環を支える重要な分解者である。世界には, 3,000種ほどのシロアリがおり, その分布の中心は熱帯・亜熱帯地域である1)。厄介なことに, シロアリは同属の種間における形態的差異が乏しい。例えば, 多くの分類群の昆虫において交尾器(特に雄交尾器)の形態的特徴は種の識別や場合によっては亜種の識別にも有用とされる。しかしながら, シロアリではほとんど全ての種がキチン化した交尾器を持たない。そのため, シロアリには多くの隠蔽種が存在すると考えられる。 著者らは最近, 日本からは20年ぶりとなる新種のシロアリを発見し, 「スギオシロアリ Neotermes sugioi Yashiro」と命名して記載した2)。本稿では, スギオシロアリについて, 著者らの研究2)を中心に今回新たに示す解析データも用いて紹介する。2. 日本に棲息するシロアリ 現在, 日本には少なくとも4科9属16種の在来のシロアリが棲息している(その他に7種の外来種と考えられるシロアリが棲息しているが, 在来か外来かの判断が難しい種も含まれる)3-5)。世界のシロアリの分布の中心が熱帯・亜熱帯地域であることを反映し, 日本に棲息する在来のシロアリも亜熱帯地域である南西諸島において種数が多い4)。さらに, 南西諸島に棲息するシロアリのいくつかの種に関しては, 単一の種ではなく複数の隠蔽種から成る種群(species complex)である可能性も指摘されている6)。3. コウシュンシロアリ種群 Neotermes属は大型の乾材シロアリ(レイビシロアリ科)で, 世界で120種ほどが知られ, 主に熱帯・亜熱帯地域に棲息している1)。日本では, 南西諸島の琉球諸4. 分子系統解析 日本と台湾から合計37個のNeotermes属のシロアリのコロニーを採集した(琉球諸島, 30コロニー;台湾, 7コロニー)。各コロニーの擬職蟻1匹ずつからDNAを抽出し, PCR法でミトコンドリアDNAのCOII領域及び核DNAのITS2領域を増幅し, ダイレクトシーケンス法で各領域の配列決定を行った。得られた塩基配列データとGenBankに登録されている比較可能なNeotermes属の全ての種の塩基配列データを用いて, ベイズ法による系統解析を行った。 その結果, COII領域及びITS2領域の塩基配列に基づく解析で得られた系統樹において, 琉球諸島のNeotermes属のシロアリの単系統性と台湾のコウシュ報文「スギオシロアリ」について
元のページ ../index.html#5