66図7 (a)Surf1cでの水滴の挙動。1cの針状結晶間の隙間よりも小さい微小な水滴Aはくっつくが、隙間より大きい水滴BとCは弾かれる。(b)Surf2cでの水滴の挙動。微小な水滴Aは2cの小さな針状結晶間の隙間程度なのでくっつくが, 隙間よりも十分に大きい水滴BとCは弾かれる。(c)Surf1c+2cでの挙動。微小な水滴Aはくっつく。中間的な大きさの水滴Bは2cに弾かれた後1cにくっつくことができる。水滴Cは弾かれる。ことが分かる(図6中の縦の赤色の点線)。 ここで, (1)式中の3つの係数について説明する。これらの中には水の密度ρ, 衝突速度V, 表面張力γ, 接触角θ, 粘性係数η, 針状結晶の太さ, 針状結晶の間の隙間, 針状結晶が濡れる先端からの長さが入っている。係数を実験条件に置き換えて(1)式で示されるサイズ依存性を考えてみよう。まず, 係数aの中の衝突速度Vが大きいと(1)式の右辺第一項目の寄与が大きくなり, 図6中の境界が左に寄る(小さな水滴も弾かれるようになる)。次に係数bの中には濡れる面積が入っている。濡れた面積が大きいと右辺第二項目(-br2)の寄与が大きくなり, 境界が右に移動して大きな水滴もくっつくことが分かる。他にも, 係数bには水滴の大きさと針状結晶の間の隙間や太さの関係が入っている。例えば, 水滴の大きさよりも針状結晶が小さな隙間で密に生えている表面では濡れる面積は小さく(Cassie-Baxter状態), 小さな水滴でも弾かれる。または針状結晶の太さに関わらず, 隙間程度かそれよりも小さい水滴はべっとりと濡れてくっつく(Wenzel状態)。逆に隙間が広くても, それよりも十分に大きい水滴は毛の先に弾かれる(Cassie-Baxter状態)。表面の針状結晶と水滴の大きさについて大雑把な説明ではあるが, こういった状況が第二項目に入っている。最後に係数cには水滴の粘性が入っている。水に水溶性高分子を溶かすなどして粘性を大きくすると, 境界が右に移動して大きな液滴もくっつくようになる。ここまでは, 針状結晶1cだけか, 小さな針状結晶2cだけが生えた表面の話である。以上の説明を図7a, bに示した。 さて, 1cと2cが一緒に生えている表面ではどうだろうか。この条件では, 水滴は両方に同時に衝突するか, ごく短時間のうちに2cに衝突したあとに1cに衝突することができる。このとき, 1cと2cとそれぞれ独立に衝突したときに発生する付着エネルギーと摩擦エネルギーが同時に衝突時の運動エネルギーを減ずる。その結果, 図7cに示したように中間的な大きさの水滴Bが表面にくっつきやすくなる。実験結果をよく説明していることが分かるだろう。ここでは表面に成長した針状結晶について考えたが, 針状結晶の長さ・太さ・隙間を, 表面に生えた毛の長さ・太さ・隙間に置き換えると, シロアリの翅の表面でも同じ説明が成り立つ。6. さいごに 本稿で紹介したように, 二つのジアリールエテン誘導体を用いて, サイズの異なる2種類の針状結晶を成長させ, 効率的に霧を表面に付着させて大きな水滴にしてはじく, というテングシロアリの翅が示す特殊な濡れ性を再現した。このような表面の作成は, その材料の表面構造が霧を集めて水を作る表面の設計指針となると考えられる。このような表面構造を, 安価で安定な材料表面に転写して実用化への検討を行いたい。
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