しろありNo.175
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写真2  父島の扇浦分譲地の街灯に集まるイエシロアリの有翅窓を閉め, 部屋の明かりを消し, テレビの明かりが漏れないようにカーテンを閉めても, 窓の隙間から何頭もの有翅虫に侵入されてしまう始末です。小笠原の6月頃の夜間は既に蒸し暑く, 当時は冷房機器が無い家庭も多く, 扇風機やうちわをフル活用して大群飛が落ち着く夜8時頃まで, 家の中で缶詰め状態で耐え忍ぶしかありませんでした。また大群飛の翌朝には, 道路の街灯下に多くの有翅虫の死骸が積もり, それが轍となるほどで, 朝の通勤通学時間帯には鼻につく匂いがした他, この死骸により車やバイクがスリップをし, 交通に支障が生じる程でした。このような状態であったため有翅虫が飛び出しそうな湿気が高い日には, 有翅虫の大群飛を予想して覚悟していたものでした。家屋などの被害についても父島の至る所で, 木片や木杭, 生木を食害し, 九割近い建物に加害が認められていました2)。虫(平成29年6月)所の吉野利夫防除施工士を中心に九州や東海, 中国地方などのイエシロアリ駆除精通者を島内に招聘したこと, またこれまでに九州大学の森本桂先生, 京都大学の吉村剛先生, 山口大学の竹松葉子先生, 長崎大学の山田明徳先生, 森林総合研究所の鈴木憲太郎先生, 大村和香子先生, 神原広平先生, 日本しろあり対策協会元会長の土居修一先生や薬剤メーカーの研究者の皆様, 多くのシロアリ駆除業者の皆様にご指導いただいたことが契機となっています。特に宮崎病害虫防除コンサルタントの児玉純一防除施工士には長年に亘り率先して小笠原のシロアリ対策にご尽力いただきました。この場をお借りして皆々様には深く感謝申し上げます。 平成6年度には村内の現状を専門的に調査していただいた結果, 父島のイエシロアリの生息密度は, 全国的にみてもこれ以上高い所は聞いたことがない, との報告を受けました2)。また生息域が父島全域に広がっていることによりイエシロアリを根絶することは既に困難な状態となっているため, 居住地区周辺の山域を中心としたイエシロアリの営巣探査と駆除をする「人とシロアリの住み分け方針」が提案されました。平成7年度からはイエシロアリ駆除に精通している九州を中心とするシロアリ業者に業務委託を開始し, 数年後からは駆除方法を村内在住者に指導し, 数名の経験豊富なしろあり防除施工士を育成していただきました。これらの取り組みにより父島にシロアリ駆除業者が設立され, 平成15年度からは村内のシロアリ駆除業者が小笠原村のシロアリ防除業務を受託できるまでになりました。村内でシロアリ駆除業者が設立したことにより, 現場での早期の防除処理や相談, 駆除作業が可能となった他, 村民が防除施工士の資格を目指しやすい環境にもなりました。これはエスコートしろあり防除センターを経営されている杉浦正明防除施工士が村内で最初にシロアリ駆除の指導を受け, 長い間ご尽力いただいたお陰であります。 一方, 父島から南に約50km離れた母島では, イエシロアリの生息を確認していませんでしたが, 父島の高密度な状況を母島住民も把握していたため, 母島にイエシロアリを侵入させないための条例を制定するよう, 母島住民277名の署名とともに要望書が小笠原村に提出されました。当時の母島住民の成人が327名でしたので, そのほとんどの方が署名しており, 母島住民の危機感の高さがうかがえます。これらのことにより平成10年3月には「イエシロアリ等の母島への侵入992. 行政主導によるシロアリ対策 このイエシロアリにより, 住民生活に支障が生じていたこと, 家屋など財産に被害を受け, 対応に苦慮していたことから, 小笠原村議会にてその具体的な対策などについて, 多くの質問や意見が議論されました。さらに店舗併用住宅を構える商工経営者等の要請に基づき, 小笠原村商工会から行政に対して, 早期に且つ積極的で具体的な対策についての陳情要請があり, 小笠原村主導による, 健全な住民生活と財産の保護を目的とし, 主に, 山域内でのイエシロアリの駆除を実施するようになりました。このような取組は全国の地方自治体規模では小笠原村でしか実施していないと思われます。 今日に至る小笠原村のシロアリ対策事業が形成されたのは, 平成4年度から3年間, 九州の吉野白蟻研究

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