1010防止に関する条例」が制定されましたが, この条例制定2ヶ月前の平成10年1月に, 居住地区から北側にかなり離れた場所にある長浜トンネルの完成記念植樹帯からイエシロアリの生息が確認されました1)。その後, 母島と父島のイエシロアリの遺伝子配列を長崎大学の山田明徳先生らが解析した結果, ハプロタイプが北アメリカを中心に生息するものと同一であることが判明しました。これは母島と父島のイエシロアリがアメリカ由来であることを強く示唆するものであります。また, これらと同じハプロタイプをもつイエシロアリは日本にはほとんど生息していません3)。このことから母島のイエシロアリは昭和30年にアメリカから父島に侵入したものが母島に渡ったものと考えられ, 平成3年に長浜トンネルを建設した際に記念植樹などと一緒に父島から母島に侵入したのではないかと小笠原村では推測しています。平成3年より前にこの条例を制定していれば, 母島にはイエシロアリが侵入しなかった可能性を考えますと, 残念と言わざるを得ません。母島では, イエシロアリの「根絶」を目指して探査・駆除を繰り返しておりますが, 平成24年には集落周辺にある伐採木の仮置き場となっていた蝙蝠谷にも飛び火していたことを確認し, 生息範囲が広がったことで母島のイエシロアリの根絶対策は非常に難しい局面を迎えています。 またイエシロアリ以外に家屋を加害するシロアリとしては, 小笠原ではヤマトシロアリとダイコクシロアリがおります。 ヤマトシロアリについては父島では集落から離れた洲崎という場所で少し生息を確認していますが, 家屋への被害報告を受けていない他, 洲崎ではイエシロアリの生息密度が高いため, この状態でヤマトシロアリの生息密度や範囲がどのように変化するのかを調査していきたいと考えております。母島では集落近くの静沢においてヤマトシロアリの生息を確認していましたが, 令和2年11月時点ではその周辺の蝙蝠谷や元地の北西部まで生息域が拡大しているのを確認しているため, 静沢と元地北西部周辺の山域を中心に駆除を続けております。 ダイコクシロアリについては, 父島では島の中心地となる西町で家屋の被害を数件確認しております。また母島の元地や静沢では父島よりも被害件数を数多く確認しており, シロアリ対策事業での家屋点検の際には, ダイコクシロアリの糞を時折目にします。しかしながら, ダイコクシロアリはそれぞれのグループに分かれていることにより完全駆除が難しいため, 村民への対策の案内としては, ダイコクシロアリの糞などを見つけた場合には, 糞が出てきた辺りに千枚通しで穴を開け, そこに市販の油剤の殺虫スプレーでこまめに駆除することと, 家屋の周辺には餌木となるような木材などを置かないようにと, お伝えしております。図1 母島の地図3. 環境への配慮 小笠原村のシロアリ防除業務委託は主に山域を中心としてイエシロアリを駆除しているため, 希少動植物が多く存在する森林生態系保全区域での薬剤やその使用方法については特に配慮しなければなりません。イエシロアリの探査と駆除の主な方法としては, 比較的好んで営巣を作りやすい「大径木」や「枯れかけている立ち木」に直径9mmのドリルで穿孔し, その時のドリルの感触や, 穿孔後に長いマイナスドライバーを穿孔内に挿す感触により営巣を把握する他, 分かりにくい場合にはファイバースコープで穿孔内を見て確認します。営巣を見つけると粉剤をその穿孔内に投入した後, 雨水が穿孔内に入ってきて薬剤の効果が薄れないことと, 薬剤が外に漏れて外部の環境に影響を与えないために木栓で栓をします。倒木についてはイエシロアリの餌木となることが多いため, イエシロアリが多くいる倒木には液剤を浸み込ませるようにしてかけて駆除しますが, 最小限の使用量としています。
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