しろありNo.175
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2424図1  オオシロアリのカースト分化経路. Miura et al.,(2000)11)図2 各カーストの繁殖器官の発達比較。(A)オスの各カーストにおける繁殖器官, (B)メスの各カーストにおける繁殖器官。ニーは, 梅雨明けに巣から飛び立つ有翅虫(羽シロアリ)が雌雄のペアを作り営巣することからはじまる。その後, 有翅虫は一次生殖虫として繁殖し, 生涯を通して子を生み続ける。孵化した幼虫は, 脱皮を繰り返し成長し, 成長した老齢の幼虫がワーカーとして働く。その後, この老齢幼虫は繁殖カーストや兵隊など別のカーストへと分化する能力を保持する。そのためこの老齢幼虫は, 繁殖カーストへと分化するポテンシャルを保持し, 完全不妊のワーカーではないため, これと区別し正確には「擬職蟻」と呼ばれる12)(本稿では単に「ワーカー」と記す)。このワーカーからどのようにして繁殖カーストや兵隊への分化が起こるのか, その過程を明らかにすることが本種における繁殖分業の仕組みの解明につながる。当然, 繁殖カーストへの分化過程では生殖腺が発達し, 不妊カーストである兵隊への分化時には生殖腺がなくなることが予想されを元に作成。る。しかしながら, 本種だけでなくシロアリにおいてカースト分化時の生殖腺の発達や退縮に関する詳細な知見は少なかった。3. カースト特異的な生殖腺発達 そこでまず, オオシロアリの雌雄における各カーストの生殖腺を観察した13)。シロアリの腹部には, メスは一対の卵巣と輸卵管が, オスは一対の精巣と輸精管そして附属腺が存在する(図2)。解剖学的な観察の結果, 繁殖カーストである有翅虫や補充生殖虫では, 非常に発達した卵巣や精巣をもつことが確認された(図2)。また, 不妊カーストである兵隊も生殖腺を持っていることが確認された(図2)。では, 兵隊の生殖腺はどの程度機能的なのだろうか。その発達の程度を, 卵巣については卵巣内部の卵巣小管の数を, 精巣については長軸直径のサイズを比較することで調査した。その結果, 繁殖カーストでは, 卵巣小管の数が多く, 精巣のサイズも大きい。一方で, 兵隊の精巣は, 繁殖カーストと比較すると未熟だが, ワーカーと比較するとやや発達していることが判明した。さらに予想外なことに, 兵隊の生殖腺の組織形態を詳細に観察した結果, オスの兵隊の精巣から繋がる輸精管の内部には精細胞が観察されたのである。このことは, 本種においては兵隊も繁殖能力を組織形態的には保持するものの, 行動や生理状態によって繁殖が抑制されていることを示唆する。また, 本種に近縁な種であるネバダオオシロアリ Zootermopsis nevadensisでは, 発達した大顎や着色した兵隊様の頭部を持つが, 繁殖を行うReproductive-soldierというカーストが存在することが知られている14)。オオシロアリの兵隊がやや発達した生殖腺を有すことは, こうしたカーストへと分化する能力の名残なのかもしれない。

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