京都大学生存圏研究所 仲井 一志 タンザニアでは「ミオンボ林(Miombo woodland)」と呼ばれる半乾燥林が広く分布し, 楽器用部材に使わ図1 タンザニアの地方農村の家屋例れるアフリカン・ブラックウッド(以下ABW)(Dalbergia melanoxylon)等のマメ科の樹木を中心に多様な樹種が自生する1)。一般に, ミオンボ林は3種のマメ科の中高木(Brachystegia, Julbernardia, Isoberlinia)が優占する植生と定義されており2)3), タンザニアやモザンビーク, マラウィ等で広く確認されるアフリカを代表する植生の一つである4)(図2)。ミオンボ林は, 乾燥疎開林という別称を持っていながら安定した年間降水量があるのが特徴で, 多くの大型動物(ゾウ, カバ, ライオンなど)が生息する生物多様性ホットスポットでもある5)。ミオンボ林における代表種の一つがABWで, スワヒリ語ではMpingoと呼ばれる。ABWはアフリカ大陸のサブサハラ地域に分布し6), 特にタンザニアとモザンビークに大径級の個体が分布する。ABWの心材は気乾密度1.1~1.3g/cm3で, 黒紫色を呈した特徴的外観と優れた音響物性によりクラリネットやオーボエといった木管楽器の管体材料として世界的に使用されている。 ABWは管楽器の材料として不可欠で, ミオンボ林における限られた有用資源である一方, 近年は資源量減少が喫緊の課題となっている。天然林に自生するABWの幹は通直でなく, 多幹で枝張りも多く, 節が多く捻じれた樹形をしている(図3)。一方, ABWの大部図2 タンザニアのミオンボ林(リンディ州キルワ県)29Research Topics1. はじめに 熱帯地域における木材利用を考える場合, 木材の耐生物劣化抵抗性は最も優先すべき木材物性の一つである。東アフリカの中南部に位置するタンザニアの地方農村では, 住民たちはオープンエリアと呼ばれる森林の非保護区域にて木材を収集し, 燃料や構造材として活用している。オープンエリアの中では樹木は自由に伐採でき, 有用樹種の丸太が入手された際には家具や構造材として村で加工される。通常, 地方農村では木材は保存処理せずに使用し, 場合によってはシロアリ等の食害を受ける。農村の家屋は, 竹材やヤシの葉などを基材としたもの, 地元の赤土などを混合して練り合わせたレンガ造りのものが多く(図1), 柱やベッド, 机, 椅子, 家屋扉などにはマメ科の重硬な材が頻繁に用いられる。例えば, Afzelia quanzensis(スワヒリ語名Mkongo), Pterocarpus angolensis(スワヒリ語名Mninga jangwa)のように赤褐色~濃茶色を呈する木材は構造材として重宝されており, 家具類は材面加工後にクリア塗料を塗って仕上げるのが一般的である。即ち, 耐生物劣化抵抗性の高い木材は農村での安定した生活のためには不可欠なのである。研究トピックスタンザニアのミオンボ林における有用樹種の耐生物劣化抵抗性
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