しろありNo.175
36/41

3232 第二に, 木材抽出成分が耐蟻性に影響を与えた可能性が考えられた。ABW-HWの気乾密度は他の樹種よりも明らかに高かった(1.30g/cm3, 表2)が, 職蟻死虫率はMS-HW, PA-HWや絶食状態のものよりも明らかに低く, ABW-SWやXS-HW, CJ-SWと同程度であった(図4)。木材抽出成分の殺虫忌避効果については様々な既往研究があり, 特にタキシフォリンやケルセチンといった数種のフラボノイド化合物はイエシロアリに対して高い抵抗性を示すことが知られている13)。また, ポリフェノールやイソフラボノイド, ネオフラボノイド等のフラボノイド化合物はDalbergia属やPterocarpus属といったマメ科の樹木から抽出されており, その抵抗性が示されている14)15)16)。今回の試験においては, 絶食状態よりも明らかに死虫率が高くなる試験体が見られず, 抽出成分が直接的にシロアリに対して毒性を示したとは考えにくい。ただし, ABW-SWとXS-HWを比較した場合, 兵蟻死虫率に明らかな差異が見られたことから, ABW-SWには少なからず忌避効果があり摂食量が低下したことが影響していると考えられる。ABW-HWABW-SWAQ-HWMS-HWPA-HWXS-HW*同一アルファベットは統計的有意差がないことを示す(Tukey-Kramer test, p<0.01)表3 タンザニア自生樹種の抽出成分比率(mean ± SD)水抽出成分(wt%)*エタノール・ベンゼン混合溶液抽出成分樹種13.33 ± 0.72a16.74 ± 0.21a23.40 ± 2.78c17.59 ± 1.82a18.24 ± 1.48a13.42 ± 0.54aその含有量は約25wt%であった。ABW-HWの抽出成分組成はABW-SWとは大きく異なっており, 心材化の過程で多量の油溶性成分が生成・沈着すると考えられる。表2に示すように, ABW-SWの気乾密度はABW-HWと比較して明らかに低く, 既報によると実際は0.75 g/cm3であると報告されている12)。したがって, 心材成分の生成・沈着によって気乾密度が2倍近く上昇し, 同時に耐生物劣化抵抗性が大きく向上すると推察される。一方, MS-HWとPA-HWについては, ABW-HWと比較して水溶性成分比率は同程度だが, ABW-HWよりも明らかに油溶性抽出成分比率が低かった。一般に木材の水溶性抽出成分は水可溶性炭水化物や配糖体等に由来する。抽出成分と耐生物劣化抵抗性の関連を明らかにするには, 各抽出成分の比率だけではなく, 各成分の構成について詳細に分析していく必要があるだろう。(wt%)*25.56 ± 3.73d1.57 ± 0.40a15.33 ± 1.69c3.42 ± 1.03a8.25 ± 0.54b0.64 ± 0.12a2.2 抽出成分と耐生物劣化抵抗性 表2に示すように, 耐朽性についても白色腐朽菌, 褐色腐朽菌共に, シロアリ試験と同様の傾向が確認されており, MS-HWやPA-HWはABWと同等以上の耐生物劣化抵抗性を有していることが示唆された。今回用いた試験片から抽出された水(40℃)可溶成分(浸漬抽出), エタノール・ベンゼン(1:2 vol/vol)混合溶液可溶成分(ソックスレー抽出)それぞれの組成比率を表3に示す。 ABW-HWには多量の油溶性抽出成分(エタノール・ベンゼン(1:2 vol/vol)混合溶液可溶成分)が含有し, 3. おわりに タンザニアだけでなく, アフリカ, 東南アジア, 中南米等の熱帯地域には木材として優れた特性を持つ樹種が多い。その多くは原産国地域で伝統的に工芸品や家具などに使われ, 中には楽器や高級家具等の部材として世界的に知られているものもある。特に, 耐生物劣化抵抗性の高い木材は, 伐採後の丸太の保管, 製材後の木材の保管, 乾燥, 輸送等において品質を維持できる点で重宝される。今回, 改めてその有用性が示されたABWやMS-HW, PA-HW等の樹種は, 今後更なる用途での活用拡大が期待される。今後は, 抽出成分と耐生物劣化抵抗性の関連を焦点とし, 抽出成分の化学的活性だけでなく, 抽出成分の木材組織内分布, 物理特性に与える影響等, 抽出成分を木材物性の重要な要素として考えていく必要があるだろう。

元のページ  ../index.html#36

このブックを見る