龍谷大学 内田 欣吾龍谷大学 西村 涼 東京薬科大学 横島 智 旭川医科大学 眞山 博幸あえて雨季に飛び立つ。そのため, 翅は濡れて重くならないように雨粒を弾く構造になっている。加えて, この種のシロアリは胴体に比べて翅が非常に大きいので, 水滴との接触面積をできるだけ減らす必要がある。このような濡れ性を実現するために, その翅の表面構造は他のシロアリと比べても特殊であった。比較のため, 著者らの所属する大学(滋賀県大津市)の近隣のシロアリ駆除業者に出向いたり, 森林総合研究所(現森林研究・整備機構)の研究者などに問い合わせたりして, 日本に生息している3種類のシロアリを入手し, これらの翅の表面構造も電子顕微鏡(SEM)で観察し, それらの画像も図1中に比較して表示した5)。 これらの表面構造はそれぞれ少しずつ異なっているが, それぞれのシロアリの性質と表面構造に法則性が見受けられる。入手した3種のシロアリは, 梅雨の前に飛ぶヤマトシロアリ種(図1c, d), 梅雨の期間に飛ぶイエシロアリ種(図1e, f), そして, 梅雨明けに飛ぶアメリカカンザイシロアリ種(図1g, h)である。これらはどれも日本では家屋に被害を与えるシロアリの代表格であるが, 偶然にも飛ぶ時期が梅雨の前後と梅雨の最中に飛ぶ種ごとに分かれていた。梅雨の前後に飛ぶヤマトシロアリ, アメリカカンザイシロアリの翅には小さな突起があるだけで毛がなく, 撥水性を示さなかったが, 梅雨の最中に飛ぶイエシロアリの翅には突起は存在しないが毛があり, 超撥水性を示したのである。テングシロアリの翅のような二つの構造を有しているシロアリの翅を入手することはできなかったが, シロアリがその種類によって飛翔する時期に適応した構造をもつ翅を有していることが明らかとなった。1Reports1. はじめに 自然界には数多くの生物が生きており, その表面には多彩な機能が備わっている。ハスの葉が水を弾き返すダブルラフネス表面, 光を反射せずに吸収する蛾の眼の構造, ファンデルワールス力を巧みに利用し垂直な壁をも登るヤモリの足の構造, などは明らかにされている一例に過ぎない。我々は, フォトクロミック化合物と呼ばれる, 光を照射することにより色と分子構造を可逆的に変える色素について研究してきた。具体的に説明すると, 無色の異性体Aに紫外光を当てると着色した異性体Bを与え, これに可視光を照射すると元の無色のAを再生するというものである。我々は, AとBに相当する状態が熱的な安定性に優れたジアリールエテン(DAE)というフォトクロミック化合物を研究しており, 無色のAに相当する状態を開環体(open-ring isomer, oと略記する), 有色のBに相当する状態を閉環体(closed-ring isomer, cと略記する)という1)。このDAEのある誘導体の開環体の結晶に紫外光を照射すると, 光生成した閉環体が表面に針状結晶として成長し, これに可視光を照射すると針状結晶が消失する現象を見出した2)。このようにして針状結晶を成長させた表面に水滴を置くと, その水滴の接触角は, 163°と超撥水性を示し, 水滴の転落角が2°以下であることが判った。これはハスの葉の表面の接触角, 転落角と同じである。このシステムを利用し, 生物の表面構造をまねるとともに, 表面構造を理解する研究を行ってきた。今回は, オーストラリアに棲息する和名テングシロアリの翅の構造を模倣した結果について報告する。2. テングシロアリの翅の構造 シロアリにも数多くの種類があるが, オーストラリアに生息しているテングシロアリ(Nasutitermes walkeri)の翅が特殊な濡れ性を示すことが報告されている3,4)。テングシロアリは, 住んでいるコロニーを巣立って新しいコロニーをつくるとき, 天敵から身を守るために3. テングシロアリの翅の構造の模倣 テングシロアリの翅の表面構造は図1(a, b)に示したように長い毛(マクロトリキア)と小さい突起構造(ミクラスター)の二つが混在する構造であるため, それと同様の表面構造をつくるには, これまでに報告してきたジアリールエテン誘導体のなかから, 針状結晶報文シロアリの翅の表面構造と特殊な濡れ性を模倣した結晶膜の作製
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