しろありNo.175
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Eres=ar3-br2-cr (1)ち, テングシロアリの翅の表面構造を模倣した構造を作製することで, その特殊な濡れ機能を再現することに成功したことがこの実験からわかった5)。 5. 特殊な濡れのメカニズム 衝突した小さな水滴はくっつき, 大きな水滴は弾かれるという特殊な濡れのメカニズムについて簡単に説明する(詳細は参考文献5)のSupplementary informationを参照されたい)5)。大きな水滴は表面に衝突して変形し, くっつくか弾かれるので, 衝突時の運動エネルギーと付着した水滴を表面から外すためのエネルギー(付着エネルギー), 水滴の変形時に水滴内部で生じる摩擦エネルギーを考える必要がある(水の粘性が原因)。これらの3つのエネルギーのバランスに注目し, 特殊な濡れをできるだけ簡潔に説明したい。 まず, 運動エネルギーは質量に比例し, 速度の2乗に比例する。質量は体積に密度をかけたものである。水滴を球と仮定して体積を考えると, 質量は球の半径の3乗に比例することになるので, 運動エネルギーは液滴の半径の3乗に比例する。次に付着エネルギーは濡れの面積に界面張力をかけたものに等しい。濡れの面積は水滴の大きさ変形の度合いにもよるが, 水滴の大きさに関係なく変形の度合いが一定で球の半径に比例した半径をもつ円であると仮定すると, 付着エネルギーは球の半径の2乗に比例すると考えることができる。さらに摩擦エネルギーは速度の空間勾配の2乗に比例する一方, 水滴の体積に比例し, 水の粘度に比例する。ここで, 速度勾配は衝突速度を水滴の半径で割ったときの傾きのことである(水滴の中心は衝突速度で変形するが, 水滴の端では衝突速度はゼロと考える)。摩擦エネルギーは速度の空間勾配の2乗(水滴の半径の2乗に反比例)に体積(半径の3乗に比例)をかけると求められるので, 結果として, 摩擦エネルギーは半径に比例する。 次に, 運動エネルギーは付着エネルギーと摩擦エネルギーによって減少する様子を水滴の半径に基づいて考える。以下の説明は論文内容とは異なる部分もあるが, 直感的で分かりやすいだろう。水滴の半径をrとすると, 衝突後に残った運動エネルギーEresは次の関係式となる。図6  表面に衝突した後に残る運動エネルギーのサイズ依存性の模式図。a=0.4, b=2, c=2のときの(1)式の計算結果である。黒い点線は運動エネルギー(ar3), 黒い一点鎖線は付着エネルギー(-br2), 黒い破線は摩擦エネルギーで(-cr)を示している。赤い曲線はEresである。薄い灰色の背景色の領域は残った運動エネルギーが負の領域(Eres<0), 濃い灰色の領域は正の残った運動エネルギーが付着エネルギーよりも小さくて付着したままの領域である(0br2 (2)55

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