しろありNo.178
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築規則施行細則にシロアリ対策としてのコンクリートの活用法が初めて明記されることとなった。 具体的には, 本稿で取り上げる「防蟻コンクリート」に関する以下の条文であった18)。第九條 建屋下地盤ノ表面ニハ總テ厚サ三寸以上ノ「コンクリート」又ハ堅牢ナル敲等適當ナル不滲透性材料ヲ敷クヘシ 同条文で書かれているのは, 建物の底面全体に鉄筋コンクリートを流し込んだベタ基礎のことであり, 建物の直下全面のコンクリートを厚さ「三寸」(約9㎝)以上で打設した基礎とすることであった。そして同コンクリートは石灰を含まないセメントが使用され, セメントと砂の比率は1:3であった19)。ここで示されたベタ基礎のメリットは, 床下の地面をすべて厚いコンクリートで覆うため, 湿気が建物に伝わりにくくなることから, 湿気による住宅の木材の腐朽等も避けることができることであった。そして, なにより地面と建物の間に厚いコンクリートを敷くことで, シロアリの被害を防ぐことが可能となったとされた。そのため同細則にあるコンクリートは, 「防蟻コンクリート」としてシロアリ対策の効果が期待され, その使用が広く奨励されることとなった20)。 そして当時は, 建物全体を鉄筋コンクリート造とするためには普及に時間がかかるため, 耐震及び防火, さらにはシロアリ対策等の観点から上部構造については, レンガ造等の強度のあるものが推奨されることとなり, レンガ造が広く普及することとなった。先述した通り同時期に建築資材としてレンガが多用されるようになった要因の一つは, こうした細則の改正が影響を与えていた。 ちなみに同細則内にある「不滲透性材料」は, 水が浸透せず, なおかつ, さびないものを指していた。現代ではコンクリートを始め, ステンレスやタイル, 合成樹脂が, これに当たるものの, 当時においては, 「不滲透性材料」として活用できるものは限られていたことから, 実際はコンクリートが施行される場合が多かったとされる21)。 以上のように1907年に改正された同細則にシロアリ対策の条文が追加された背景には, 当時の台湾で建設された建物におけるシロアリ被害が深刻であったことが考えられる。具体的には1900年に台湾家屋建築規則施行細則が制定された当初, シロアリ被害は想定されていなかった22)。しかし先述した通り, 台湾総督府による統治が始まって間もない頃に建てられた木造の建物の大半が10年程度で建て直されるなど, 当時の台湾ではシロアリによる被害で深刻になりつつあった。その被害の一例を挙げると台湾総督府庁舎・台湾総督府附属倉庫・台湾総督府博物館・台湾総督官邸・台北医学専門学校校舎・台北病院病棟・台湾総督府図書館・赤十字社台湾支部病院・台湾総督府中央研究所本館・台湾総督府中央研究所農業部本館・台湾電力株式会社本館・台湾電力株式会社倉庫等であった23)。 以上は台北におけるイエシロアリの被害を受けた建築物の主なものであったが, いずれの建築物も壁体にレンガを使用し, 一部の建物には鉄筋コンクリートの骨組みとレンガを使用した構造であった。また台湾総督府の高さ約54mの鉄筋コンクリートの塔もその最上にイエシロアリの被害を受けるほどであった。そして木造の建築物は, さらにその被害が大きく1901年に日本内地産ヒノキを使用して建てられた台湾神社や日本産杉を使用していた台北第3高等女学校, 日本産松を使用していた台湾総督府官舎等では, 著しい被害を被っていた24)。 このように建築物の壁体が木造はもちろんのこと, レンガあるいはコンクリートであってもシロアリの食物となり得る木材が建築物内にある限りはその被害を免れることが出来なかった。ここでいうイエシロアリは, 暖地性の種で, 台湾で広く生息しており, 日本内地に生息するヤマトシロアリに比べて繁殖力や食害範囲が大きく, 大規模な被害を引き起こしやすいとされていた25)。また台湾におけるイエシロアリの被害は南部よりも北部の方が多く見られたが, その理由は湿潤な北部の気候がイエシロアリの習性から見て, 最も繁殖に適していたためであった。そして台湾固有の建築物よりも日本統治が始まって間もない時期に建てられた建築物に被害が多く見られたが, このことは, 一般に日本統治が始まった後に建てられた建築物はシロアリの食物となり得る木材を多量に使用しながらもシロアリの被害に対する材料の研究が「甚だ閑却せられて居る」ことに起因していたとされる26)。 以上のことから, 改正後の細則に明記された, シロアリに対する効果的な工事方法として地面からの白蟻の侵入を防ぐべく建築物の土台を一定の高さまでコンクリート打設するという「防蟻コンクリート」は, 効果的な防蟻法として評価され, 広く台湾全土で採用されるようになった27)。99

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