しろありNo.178
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Research Topics24近畿大学農学部 板倉修司1. はじめに シロアリの腸内では, 原生生物ならびに細菌との複雑な共生関係が確立されている。例えば, 下等シロアリの後腸内に共生している原生生物がもつ糖質加水分解酵素などの作用でセルロースから生成した酢酸が二酸化炭素と水素(これらの二酸化炭素と水素も腸内の還元的酢酸生成細菌により酢酸へ変換される)とともに後腸内へ放出され, さらに後腸壁を通して宿主であるシロアリに吸収された酢酸がアセチル-CoAへ変換された後, シロアリのミトコンドリア内に輸送されてシロアリのTCA回路によって代謝される例が知られている1-3)。また, イエシロアリの共生原生生物Pseudotrichonympha grassiiの細胞内には数万個もの窒素固定細菌が共生していて, 空中窒素を固定し, アミノ酸やビタミンを宿主シロアリに供給する例なども知られている4)。 このほかにも, シロアリの腸内には水素産生細菌など多様な微生物が生息している。水素産生能力が知られているEnterobacter cloacae5)とEnterobacter aerogenes6)がイエシロアリの腸から分離された7)。また, シロアリから分離されたClostridium属細菌8-10)やEnterobacter cloacaeとClavibacter agropyriによる好気的雰囲気下での水素産生条件が検討されてきた11,12)。著者はヤマトシロアリから分離した通性嫌気性細菌による嫌気的雰囲気下における水素産生について前報で報告した13)。その際, ヤマトシロアリ腸内に生息する細菌の16S rRNA塩基配列解析により, Enterobacter属細菌が水素産生細菌である可能性が高いことを示した。ここでは, 鹿児島県, 宮崎県, 和歌山県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離した水素産生細菌の16S rRNA塩基配列解析によって, 宮崎県, 和歌山県で採集したヤマトシロアリではEnterobacter属細菌が水素を産生しているのに対し, 鹿児島県で採集したヤマトシロアリではBurkholderia属細菌が水素を産生していることが明らかになったので, その詳細を報告する。2.2 ヤマトシロアリ腸内細菌コロニーの分離 職蟻30頭の後腸を, 1.5mL遠心管(TreffLab)中の0.5mL HP培養液(0.1% BactoTM tryptone, 0.05% BactoTM yeast extract, 0.05% NaCl, 0.01% Na2HPO4)14)に加えホモジナイズした液に, 1mLのHP培養液を加え, 20後腸/mLとし, さらに10倍, 100倍, 1000倍, 10000倍希釈液を調製した。これらの希釈系列液0.5mLを, 1%寒天を加えオートクレーブで滅菌したHP培養液を直径90mmの滅菌シャーレに流し込み固化させ作製したHP寒天培地に, 各濃度2枚ずつ塗布した。各濃度のHP寒天培地2枚の内1枚は好気的雰囲気下で, 別の1枚は嫌気的雰囲気下で13,15), 28℃で2日間培養した。生じたシングルコロニーを新しいHP寒天培地(マスタープレート)に植菌した。2.3 分離細菌により産生される水素とメタンの測定 「2.2 ヤマトシロアリ腸内細菌コロニーの分離」で生じたシングルコロニーを, 2mLチューブに分注したHP培養液0.5mLに植菌した。これらのチューブを, 好気的雰囲気下と嫌気的雰囲気下で13,15), 28℃で3日間培養した。2mLチューブ上部のヘッドスペースガスに含まれる水素とメタン濃度を, XG-100ポータブルガス分析装置(新コスモス電機)16)を用いて測定した。嫌気的雰囲気下で水素を産生した10コロニーによる嫌気的雰囲気下ならびに好気的雰囲気下における水素産生量の有意差を, 統計ソフトR version 3.5.117)を用いて多重比較検定した。2. 材料と方法2.1 シロアリ 煙樹海岸の松林(和歌山県美浜町, 33°53'32.0"N 135°07'56.1"E), 富田浜公園の灌木(宮崎県新富町, 32°04'19.3"N 131°30'43.1"E), 近畿大学試験地(鹿児島県吹上町, 31°30'49.9"N 130°19'59.2"E)で食害中の枯れ枝あるいは餌木とともに採集し, 研究室で約半年間飼育したヤマトシロアリの巣から職蟻を採集した。研究トピックスヤマトシロアリの腸から分離した Burkholderia属細菌による水素産生

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