しろありNo.178
31/43

Enterobacter属であることまでは識別できたが, 種レベルでの同定は不可能であった。宮崎県の2株では7種のEnterobacter属細菌(Enterobacter asburiae, Enterobacter bugandensis, Enterobacter chuandaensis, Enterobacter cloacae complex sp., Enterobacter hormaechei, Enterobacter mori, Enterobacter roggenkampii)との相同性が高かった。MT 88S株では, 上記7種すべてに対して相同性99.57%, 463/465, score 848, e-value 0.0で, MT 90T株では, 上記7種すべてに対して相同性99.35%, 462/465, score 843, e-value 0.0であったため, 和歌山県と同様に, 宮崎県の水素産生細菌がEnterobacter属であることまでは識別できたが, 種レベルでの同定は難しかった。 イエシロアリの腸からEnterobacter cloacaeとEnterobacter aerogenesが分離され7)さらにEnterobacter aerogenesとEnterobacter asburiaeは顕著な水素産生細菌であることが知られている6)。また, イエシロアリとヤマトシロアリの破砕物から分離されたEnterobacter cloacaeによる水素産生11), ヤマトシロアリ腸から分離されたEnterobacter sp.による嫌気的雰囲気下での水素産生が報告されている13, 15)。これらの下等シロアリの腸だけでなく, 高等シロアリGlobitermes sp.の腸から分離されたEnterobacter cloacaeによる好気的雰囲気での水素産生についても報告されている12)。 本研究で, 和歌山県と宮崎県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離した水素産生細菌の候補には, 水素産生能が知られているEnterobacter cloacaeとEnterobacter asburiaeの2種細菌が含まれていた。本研究で分離, 解析したEnterobatcer属細菌の16S rRNA塩基配列は, 多くのEnterobatcer属細菌との相同性が菌種識別の類似性閾値である99.0%を上回っていたため, 種レベルでの同定ができなかったが, 水素産生能を有していることを考慮すると, 上記2種のEnterobacter cloacaeとEnterobacter asburiaeいずれかの細菌である可能性が考えられる。 鹿児島県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離した水素産生細菌7株の16S rRNA塩基配列を図3に示した。図3では, 7株間で異なる塩基配列部分が黄色(3塩基相異)あるいは水色(2塩基相異)で強調されている。7株の中からKF_159T株の塩基配列をコンセンサス配列(シーケンスアラインメントの各位置における最も高頻度の残基が計算された配列)として選択し, BLASTnで検索した結果, Burkholderia sp. strain ERR 584(相同性99.57%, 463/465, score 848, e-value 0.0)との相同性が最も高かった。この他にも, Burkholderia diffusa, Burkholderia puraquae, Burkholderia pyrrocinia, Burkholderia seminalisとの相同性が高かった(これら4種に対する相同性99.35%, 462/465, score 843, e-value 0.0)。また, Burkholderia anthina, Burkholderia cenocepacia, Burkholderia cepacia, Burkholderia contaminans, Burkholderia territorii, Burkholderia vietnamiensisとの相同性も高かった(これら6種に対する相同性99.14%, 461/465, score 837, e-value 0.0)。これらの種に対する相同性は, 塩基配列での菌種識別の類似性閾値(99.0%)を上回っているので, 鹿児島県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離した水素産生細菌はBurkholderia属であることまでは識別できたが, 種レベルでの同定はできなかった。 鹿児島県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離したBurkholderia属細菌7株(KF 152S株, KF 159T株, KF 161T株, KF 168S株, KF 170T株, KF 190T株, KF 192T株)の16S rRNAの塩基配列と, これまでに報告されているBurkholderia属細菌の16S rRNAの塩基配列20)を用いて系統樹を作成した(図4)。なお, Enterobacter属細菌である宮崎県と和歌山県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離した水素産生細菌それぞれ2株ずつ(宮崎県;MT 88S株, MT 90T株ならびに和歌山県;WE 12T株, WE 13S株)の16S rRNAの塩基配列も合わせて系統樹を作成した。図4から明らかなように鹿児島県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離した水素産生細菌7株ははBurkholderia属細菌と同じ分岐群に属していた。 鹿児島県の水素産生細菌の16S rRNAコンセンサス配列がBurkholderia属細菌と相同性が高かったこと, また, 系統樹で鹿児島県の水素産生細菌7株がBurkholderia属の細菌と同じ分岐群に属していたことから, 鹿児島県で採集したヤマトシロアリ職蟻の腸から分離した水素産生細菌はBurkholderia属細菌であるとの結論に至り, これら水素産生細菌7株のコンセンサス配列(KF_159T株の塩基配列)をDDBJに登録した(Accession No. LC681649)。 イエシロアリの腸から, 好気的雰囲気下でベラトルアルデヒドを分解するBurkholderia sp.が分離され21), またキノコシロアリの菌園では, Alistipes属, Sediminibacterium属, Thermus属の細菌とともにBurkholderia属が主要な細菌であると報告された22)。これらの事例では水素産生については調べられていな2727

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る