9Termite Journal 2023.7 No.180 図1 兵蟻の頭部は属レベルで頭部や大顎の形状 色などの点において明瞭な違いがみられる。しかし同属の種間ではその違いは微妙ではあるが, 例えばイエシロアリ属においても違いがある。1. はじめに シロアリは集団生活を行う真社会性昆虫である。シロアリのコロニーは大きく3つの階級(生殖階級, 職蟻階級, 兵蟻階級)に分かれており, カーストごとに異なった役割を有する。生殖階級である女王と王は, 繁殖とコロニー形成を, 職蟻階級はコロニーの栄養補給を担当する。兵隊階級はコロニー全体の防衛システムとして責任を負う。兵蟻がいない場合, 職蟻が防御行動をとることがある1)が, 基本的にコロニーにおける役割は階級固有で, 形態的な分化を伴う。 シロアリの形態分化は幼虫の発生段階から始まる。例えば, イエシロアリ職蟻と兵蟻では複眼が発達せず, 単眼も存在しない2-5)。有翅虫だけが複眼を発達させ群飛時に正の走光性を示す6)。兵蟻は幼虫の形態とは異なり分化過程で著しい形態変化を遂げる。 シロアリの階級分化の過程で最も顕著に変化するのは, 特異な防御機能を持つ兵蟻の頭部の形状である(図1)。また, 硬化した兵蟻の頭部の形態的特徴は, 種レベルでの貴重な分類学的情報であり, シノニムの分類に役立っている7-9)。しかし, 兵蟻頭部の線形情報(サイズに関連する特徴)だけで分類しようとすると, 例えばイエシロアリ属では種の誤同定につながる可能性がある10)。 本論文では, イエシロアリ属兵蟻のシェイプ(形, shape)について線形及び幾何学的形状計測解析を行った。解析対象はイエシロアリ属の5種(C. curvignathus, C. elisae, C. gestroi, C. sepangensis, C. kalshoveni)である。解析の結果, イエシロアリ属では, 頭部下方の側方拡大と体毛分布の2点において形態的特徴が認められたことから, これらの形態的特徴の種間における違いと各シロアリ種の防衛機能との関係性を検討した。インドネシア科学研究所 生物材料研究センター Bramantyo Wikantyoso(京都大学生存圏研究所 大村和香子(訳))Abstract of Doctor Thesis博士論文抄録様々な形状を呈するシロアリ兵蟻の頭部イエシロアリ属の頭部形状Comprehensive morphometric analysis of soldier caste morphology related to the defensive organs in Coptotermes spp.イエシロアリ属兵蟻の防御機能に関する外部形態の形態計測解析
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