Termite Journal 2023.7 No.180(ISPMs:International Standards for Phytosanitary (ISPM36), 木材(ISPM39)などにおいて定められて1818ミキリ幼虫の駆除効果について, 処理前後のフラス排出あり孔数および脱出(予定)孔数から評価した。また, 推定した生活環をもとに, 樹幹注入処理の施用時期について議論した。なお, 第5章および第6章は現時点で未発表であるため, 本誌では調査の概要を記載するに止めた。第1章 総合序論 外来種は, 自然分布域を超えて新たな地域に侵入し, 侵入した地域固有の生態系, 農林水産業, あるいは人間の生活環境などに影響を与えてきた。外来種の侵入は, 今日的な現象ではないものの, 近年, 地域間で人や物資の移動が活発化するのに伴い, その数は世界各地で顕著に増加する傾向が見られる。また, この傾向は少なくとも今後数十年間続くことが予想されている。 外来種の侵入への対応として, 国際的および国内的にバイオセキュリティを強化する戦略が採られてきた。国際的には, 植物検疫措置に関する国際基準Measures)が, 木材こん包材(ISPM15), 栽植用植物いる。国内的には, 侵入個体群の早期発見および早期駆除のため, 水際対策としての輸入植物検査, あるいは侵入初期対策としての分布調査など, 侵入段階に応じた対策が講じられている。 侵入個体群が特定された後, 封じ込め, あるいは根絶に向けて, 対象種に関する限られた情報を活用し, 防除計画の策定や実行可能な対策が検討される。一方で, 侵入種が自然分布域において実害を及ぼしていない場合, 生態や防除対策に関する情報が得られないことも多い。そのため, 新たな侵入種の防除に取り組む際には, 対象種の生態に関する調査, 駆除技術の開発, 並びに技術の対策現場への導入など, 複数の課題を同時に進めることになる。 カミキリムシ類やタマムシ類などの樹木穿孔性昆虫は, 侵略的森林・樹木害虫の代表である。近年, 日本を含む幾つかの国々では, 樹木穿孔性昆虫の侵入が増加している。侵入地域では寄主木が壊滅的な被害を受け, 森林生態系の遷移プロセスや都市の緑地景観の構成に大きな影響を及ぼしてきた。例えば, 東アジアに自然分布するアオナガタマムシが北米地域に侵入した結果, 数億本のトネリコ属の樹木が枯死している。また, ツヤハダゴマダラカミキリが北米およびヨーロッパ地域に侵入した結果, カエデ類, ポプラ類, ヤナギ類, 並びに多様な広葉樹が大規模に枯死している。 直近では, バラ科樹木の害虫クビアカツヤカミキリが日本, ドイツ, イタリアに相次いで侵入し, 深刻な枯損被害をもたらしている。本種は, 中国および周辺地域に自然分布する一次性(生きている樹木を加害)の樹木穿孔性昆虫である。中国における主な寄主は, モモおよびアンズであり, 果樹園における重要害虫として知られる。その他の寄主として, ウメ, スモモ, プラム, ソメイヨシノ等が報告されている。クビアカツヤカミキリの生態には未だ不明な点が多い。また, 本種の生活環は緯度や気候によって変動し, 1~3年1化あるいは2~4年1化と考えられている。 日本国内における主な寄主は, ソメイヨシノを含むサクラ類, モモ, スモモ, ウメである。生活環は主に2年1化と考えられている。2年1化の生活環では, 夏に成虫が寄主木の樹皮の割目などに産卵し, 孵化した幼虫は樹皮下を摂食, 孵化当年はそこで越冬する。越冬幼虫は翌春に摂食を再開し, その年の夏から秋にかけて木部の奥深くに穿入して木部に蛹室を形成した後, 蛹室内で再び越冬する。幼虫は翌春に蛹室内で蛹化し, 夏に成虫となって脱出すると考えられている。 日本では, クビアカツヤカミキリの寄主であるサクラ類が山野に自然分布するだけでなく, 都市部にも植栽されてきた。本種が侵入した埼玉県, 愛知県, 大阪府などでは, 公園や街路樹のサクラ類で多数の被害が報告されている。大阪府では本種の侵入が2015年に初めて確認された後, サクラ類の被害木率および枯死木率が年々増加し, 初確認から3年後の定点調査ではそれぞれ約61%および13%に達したことが報告されている。また, 大阪府に侵入した個体群は, 年間約2~3kmの速度で分布を拡大していると推定されている。これらの結果から, 大阪府の侵入個体群は, 侵入地域に定着し, 分布を拡大する局面に移行していることが推測され, 本種に対する有効な防除技術の確立が急務となっている。 本研究は, 樹木穿孔性侵入害虫クビアカツヤカミキリからサクラ類を護るため, 大阪府を調査地とし, 本種の基礎的生態の詳細な解明および有効な防除技術の開発を目的とする。サクラ類は, 古来より日本人の生活に文化的, 社会経済的に強く結びついてきた樹種である。そのため, サクラ類をクビアカツヤカミキリの被害から護る取組には大きな価値がある。
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