第2章 クビアカツヤカミキリに寄生されやすい サクラ類の特徴 クビアカツヤカミキリの寄生の有無に関係する樹木の特徴は, 分布調査における調査地点や調査木の選定, 被害予防対策を優先する対象木の決定などに役立つ情報である。本種の寄生が確認された樹木を観察対象とした先行研究では, 物理的に大きい, 老齢である, ストレスに晒されている, 樹皮が捲れている樹木で寄生が多いことが報告されている。これらの研究は, 本種の寄生が確認された後の樹木の状態を調査している点に留意する必要がある。即ち, クビアカツヤカミキリに寄生され加害されたことにより生じた樹木の状態を報告している可能性が否定できない。そこで, 本研究は, 寄生後の影響が顕在化する前に樹木の特徴を調査した上で, 本種の寄生の有無に影響する特徴, あるいは特徴の組み合わせについて検討した。 大阪府におけるクビアカツヤカミキリの推定侵入地点周辺の公園を調査地点, 各調査地点に植栽されている全てのサクラ類を調査木とした。事前調査として, アカツヤカミキリの寄生の有無を調査した。寄生の有無は, 本種の幼虫に特徴的なフラス排出の有無により判断した。次に, 各調査木の特徴①~④について, 2017年9~10月に①樹皮の粗度(目視評価3段階), ②樹木の大きさ(根元周cm), および③樹勢(目視評価5段階), 2018年4月に④樹種(4区分:ソメイヨシノ, オオシマザクラ, ヤマザクラ, その他)を調査した。最後に, 事後調査として2018年8月に各調査木の寄生の有無を再調査した。事前調査および事後調査の寄生の有無に関する結果をもとに, 調査地点を4分類した。事前調査で寄生が確認されず, 事後調査で寄生が確認された調査地点の全調査木を対象に, 最初に寄生される樹木の特徴(First trees model)を検討した。事前調査で寄生が確認され, 事後調査でも寄生が確認された調査地点において, 事前調査で寄生が確認されなかった調査木を対象に, 次に寄生される樹木の特徴(Next 査における被害の有無(0, 1)を目的変数, 4つの樹木の特徴(①樹皮の粗さ:順序付きカテゴリカル変数, ②樹木の大きさ:連続変数, ③樹勢:順序付きカテゴリカル変数, ④樹種:カテゴリカル変数)を説明変数, 各調査地をランダム切片, 各調査地の樹木の大きさをランダム傾きとした一般化線形混合モデルを用いた。最適な予測モデルは, 赤池情報量規準(AIC: Akaike's 発生消長Termite Journal 2023.7 No.1801919Information Criterion)が最小となるモデルを選択した。 First trees modelでは, 3つの特徴(樹皮の粗さ, 樹木の大きさ, 樹勢)が説明変数として選択された(Conditional R2: 0.567)。Next trees modelでは, 4つの特徴(樹皮の粗さ, 樹木の大きさ, 樹勢, 樹種)が説明変数として選択された(Conditional R2: 0.471)。共通して選択された3つの特徴は, 寄生の有無に有意に影響し, 樹皮が粗いほど, 物理的に大きいほど, 樹勢が低下している樹木ほどクビアカツヤカミキリに寄生する確率が高いことが示唆された。樹皮の粗度に関して, 本種の成虫が樹皮の割目や隙間に産卵する習性を有することから, 樹皮が凸凹な木ほど産卵される頻度が高くなることの影響が考えられた。樹木の大きさに関しては, 成虫の寄主木探索プロセスにおいて樹冠部が大きくなるほど到達確率が高くなることの影響が考えられた。樹勢に関しては, 樹勢の低下に伴う樹液の分泌が減少することにより幼虫の穿孔に対する樹木の抵抗力が低下することの影響が考えられた。なお, 本種の寄生は健全木に対しても一定の割合で確認されたことから, 侵入地域においても一次性の樹木穿孔性種であることを確認した。樹種については, next trees modelのみで説明変数として選択されたものの, 樹種間で寄生される確率に有意な差はなった。樹種間における差異については, 今後の検討課題である。第3章 大阪府におけるクビアカツヤカミキリの 外来種の封じ込めあるいは根絶に向けては, 侵入地域における生活環を考慮した防除計画の策定が重要である。侵入地域における対象種の発生消長(出現時期や個体数のピーク)を把握することができれば, 防除適期の検討が可能となる。 先行研究において, クビアカツヤカミキリの発生消長は, 自然分布する中国だけでなく日本国内においても, 地域によって異なることが示されてきた。一般的に, 発生消長は, 同一地域においても気温等の影響により, 年次的変動を示す。このように地域間差や年次変動の存在を考慮した上で, 対象種の各地域における発生消長の傾向を把握するためには, 同一地域において複数年かつ複数調査地点において同じ方法で調査を行うことが望ましい。しかしながら, 本種に対する継続した発生消長調査は, これまでほとんど行われてこなかった。本研究は, 野外調査により, 大阪府における2017年7~8月に全調査地点・全調査木におけるクビtrees model)を検討した。統計処理において, 事後調
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