第4章 クビアカツヤカミキリ幼虫の摂食部位 一次性のカミキリムシ類の幼虫は, 樹木の通水に関与する木材組織を摂食し, 寄主木の水の通道を悪化させ, 樹勢の低下ひいては枯死を招くことがある。薬剤を用いた樹木内部の幼虫駆除を検討する上で, 幼虫の位置(摂食する木材組織)は, 薬剤を到達させるべき基準となる。クビアカツヤカミキリの幼虫は, 孵化後に樹皮下を摂食し, 成熟すると木部に穿入して蛹室を形成することが報告されている。一方で, 本種はカミキリムシ類の例外に漏れず, 樹木の外側から幼虫の摂食部位を直接観察することが困難である。そのため, 各発育段階にある幼虫の摂食部位に関する詳細な観察は, 寄生木の割材など破壊的手法以外を用いて行われてこなかった。近年, X線CT装置を用いて, シロアリ等の材食性昆虫類の坑道形成過程を観察する研究が行われてきた。本研究では, クビアカツヤカミキリ幼虫の各発育段階における摂食部位(木材組織)を特定することを目的に, 幼虫が寄生したサクラ類における丸太断面の直接観察に加えて, 寄主枝を用いて人工飼育した幼虫の枝内部をX線CT装置により観察した。 摂食部位の直接観察では, クビアカツヤカミキリに特徴的なフラスの排出が確認されたサクラ類(品種不明)3本を伐採し, 地際に近い樹幹部の1m丸太を各1本用意した。丸太を5cmごとに輪切りにし, 合計20個の断面丸太(ディスク)に分割した。各ディスクの樹皮下のフラスをピンセットで取り除き, 幼虫が形成した坑道を明らかにした。また, 坑道内の幼虫の位置を(木材組織)Termite Journal 2023.7 No.180 図4 脱出予定孔に設置したネット内に捕獲されたクビアカツヤカミキリの脱出成虫。 捕獲ネット(目合い0.4mm)は押しピンを使用して設置した。2019~2021年, ②富田林市1:2020~2021年, ③富田林2020クビアカツヤカミキリの発生消長を把握した。カミキリムシ類の発生消長調査では, 性フェロモンを用いた誘引捕殺トラップ, もしくは人による直接的な捕獲や観察に基づく調査が行われてきた。本研究では, クビアカツヤカミキリにおいてフェロモントラップが実用段階に達していないため, 直接調査を採用した。 2019~2021年に大阪府内の3地点(①羽曳野市:市2:2020~2021年)においてクビアカツヤカミキリの成虫目撃数を調査した。成虫と遭遇する機会を十分に確保するため, 調査地点あたり100本以上の寄主木を含むように調査ルートをあらかじめ設定した。調査ルートに沿って, 各調査木の根元から高さおよそ3m程度までの樹上の成虫を調査の対象とし、目撃数を記録した。調査は5月下旬もしくは6月上旬に開始し, 8月下旬に終了した。調査頻度および時間帯は, 週1回以上, 11時~16時とした。 クビアカツヤカミキリ成虫の野外における出現時期は, 全ての調査年および調査地点の結果をもとに, 6月上旬~8月上旬と推定された。成虫目撃数のピークは, 調査年および調査地点によらず, 6月下旬であった。成虫目撃数は, ピーク時の6月下旬を頂点にその前後2週間程度(6月上旬~7月中旬)で多く, 7月下旬に急激に減少し, 8月上旬にはゼロに近くなり, 出現期間の前半に集中する変動パターンを示した。これらの結果から, 大阪府におけるクビアカツヤカミキリ成虫の防除適期は, 6月下旬およびその前後2週間程度と考えられた。 2021年①羽曳野調査地において, クビアカツヤカミキリ成虫の寄生木からの脱出時期(初脱出日および脱出期間)を調査した。5月22日に本種が寄生したサクラ生立木4本および切株5株に形成された脱出予定孔にネットを設置し(図4), 5月23日から8月31日までネット内に成虫が捕獲された日を記録した。 その結果, クビアカツヤカミキリ成虫の寄生木からの脱出期間は, 6月1日~7月2日のおよそ1ヶ月間であった。また, 成虫の半数脱出日は6月14日であり, 同年・同調査地の目撃数ピーク日(6月23日)までに成虫の約84%が脱出を完了していた。これらの結果は, 樹上の成虫目撃数に基づく本種の発生消長の変動パターンにおいて, 出現期間の前半に成虫目撃数が集中するという結果を支持するものであった。
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