しろありNo180
25/46

図6  ベニスモモ枝断面のX線CT画像。  矢印の先端は寄生するクビアカツヤカミキリ幼虫の場所を示す。図7  クビアカツヤカミキリの蛹室。 矢印は石灰質の蓋(白色部分)を示す。Termite Journal 2023.7 No.180 第5章 クビアカツヤカミキリ幼虫の蛹室形成プロセス カミキリムシ類の幼虫は, 成熟すると蛹室を形成し, 脆弱な蛹の時期を蛹室内で過ごす。蛹室の構造や形成場所は種によって異なることが知られており, 構造はセル型もしくは繭型, 形成場所は樹皮, 辺材, あるいは心材などである。蛹室の形態の違いは, 対象種の生息する環境における生物的要因(例えば, 天敵), あるいは非生物的要因(例えば, 湿度)など, 外的要因に対する適応と考えられている。 クビアカツヤカミキリの幼虫は, 入口に石灰質(主成分:炭酸カルシウム)の蓋が付いたセル型の蛹室を木部の奥深くに形成する(図7)。この石灰質の蓋付きの蛹室は, カミキリ亜科におけるアオカミキリ族2121図5  クビアカツヤカミキリ幼虫が寄生したサクラ丸太断面。 幼虫は形成層周辺(内樹皮および木部表層を含む)を摂食し, 一部の幼虫は形成層周辺から木部の奥深くに穿入していた。ディスク上に記録した。丸太内部の幼虫は採集して実験室に持ち帰り, 頭部の形態的特徴から種を同定した。なお, クビアカツヤカミキリは外来種であり, 在来種のように形態的特徴に関する記録が存在しなかったため, 本種が属するアオカミキリ族の特徴を有し, かつサクラ類から採集した個体である場合にクビアカツヤカミキリであると判断した。最後に各ディスクをつなぎ合わせて丸太を再構築し, 各幼虫と坑道を対応させた。幼虫の摂食部位は, ①内樹皮, ②形成層周辺(内樹皮および木部表層を含む部位), ③木部の3区分とした。 直接観察の結果, クビアカツヤカミキリの幼虫は, 樹幹を垂直方向に坑道を形成しながら, ②形成層に沿って摂食し, また, 幾つかの幼虫は形成層周辺から③木部に穿入していることを確認した(図5)。 X線CTを用いた観察では, クビアカツヤカミキリのメス成虫を用いてソメイヨシノおよびベニスモモの枝に産卵させ, 産卵枝を恒温器の中で28℃14時間日長の条件下で飼育した。産卵25日もしくは52日後の枝内部の幼虫の摂食部位についてX線CT装置を用いて観察した。得られたX線CT画像から, 枝内部の幼虫(初期幼虫)は, 樹種によらず, ②形成層周辺を摂食することを確認した(図6)。 本研究および他の先行研究の結果から, クビアカツヤカミキリは孵化後に樹木内部に穿孔し, 形成層に到達した後, 形成層周辺を摂食し, 成熟すると木部に穿孔することが示唆された。形成層内樹皮木部サクラ丸太断面ベニスモモ枝断面(□線□□画像)□□□

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る