しろありNo180
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□Termite Journal 2023.7 No.180第7章 クビアカツヤカミキリ幼虫に対する 液を注入し, 蒸散に伴う水の上方移動を介して樹全体に薬剤を行き渡らせ保護する技術である。サクラ類の通水部位は主に辺材表層が担うと考えられている中, クビアカツヤカミキリ幼虫は蛹室形成前に形成層周辺, また蛹室形成時に木部を摂食・穿孔することから(第4, 5章), 通水部位に注入された薬剤が幼虫の体内に取り込まれ駆除効果が発揮されることが期待される(図9)。 近年, サクラ類に寄生したクビアカツヤカミキリ幼虫に対する浸透性殺虫剤ジノテフランを用いた樹幹注入による駆除が検討されてきた。先行研究では, 試験本数, 無処理木, 並びに評価指標の設定等に関して, 注入処理の効果を評価する上で再検討すべき点があった。本研究では, フラス排出あり孔数を生存幼虫数, 脱出予定孔形成数を注入処理後の残存幼虫数の指標として, 処理前の越冬世代および処理当年孵化世代の幼虫に対する駆除効果を評価した。また, 第3~6章で推定した本種の生活環(2年1化)を踏まえて, 複数世代の幼虫を一度の注入処理で駆除できる可能性を検討した(図10)。 2019年4月下旬にクビアカツヤカミキリ幼虫が寄生したサクラ類にジノテフラン液剤(8.0% w/w)を樹幹■:幼虫-フラス排出あり(形成層周辺)図8  大阪府におけるクビアカツヤカミキリ幼虫の推定生活環(2年1化). 成虫の出現期間は6月上旬から8月上旬(第3章), 幼虫の活動時期はフラス排出の有無をもとに3月上旬から11月末日(第6章), 蛹室形成時期は脱出予定孔の形成時期をもとに7月上旬から11月下旬(第6章), 蛹室形成前の幼虫の活動部位は形成層周辺(第4章), 蛹室形成後は木部(第5章)とした。Callichromatini(クビアカツヤカミキリが属する), ミ2222ヤマカミキリ族Cerambycini, およびその近縁種に共通した特徴と考えられている。しかしながら, この特徴的な蛹室の形成プロセスに関する知見はほとんどない。本研究では, X線CT装置を用いた幼虫人工飼育枝内部の観察, また蛍光X線分析装置を用いた幼虫の体内器官の元素分布の可視化により, クビアカツヤカミキリ幼虫の蛹室形成プロセスを推定した。第6章 クビアカツヤカミキリ幼虫の活動時期および蛹室形成時期 クビアカツヤカミキリの生活環の解明は, 防除適期を把握する上で重要である。本種の幼虫は樹木内部に生息するため, 幼虫の発育段階を直接観察して把握することは難しい。クビアカツヤカミキリの幼虫は寄主木を摂食・穿孔する過程で発生するフラスを外部に頻繁に排出することが知られている。また, 幼虫は蛹室を完成させる直前に, 脱出予定孔を形成する。本研究では, サクラ寄生木におけるフラス排出あり孔数および脱出予定孔形成数を指標として, 幼虫の活動時期および蛹室形成時期を推測した。また, 第3章~第6章の結果をもとに, 大阪府におけるクビアカツヤカミキリの生活環(2年1化の場合)を推定し, 図8に示した。発育ステージおよび活動部位成虫□□卵□□幼虫1年目形成層周辺幼虫2年目形成層周辺→木部(蛹室)幼虫3年目□成虫木部(蛹室)→野外■:成虫/卵■:幼虫-フラス排出なし(形成層周辺)■:幼虫-フラス排出なし(木部:蛹室内)ジノテフラン液剤樹幹注入処理の効果 樹幹注入は, 樹幹の下部に一定間隔で開けた孔に薬1月2月3月4月5月6月7月8月9月□□月□□月□□月

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