Termite Journal 2023.7 No.180図2 ミトコンドリアDNAによって明らかとなったアルゼンチンアリのスーパーコロニーの主な分布域4-6, 8, 9)。各パネル内のバーは100kmを表す。図3 スーパーコロニーごとのδ13C・δ15N。プロットはサンプルごとの安定同位体比を表し, 楕円はばらつきの50%の領域を表す。●:LHI, ●:LH2, ●:LH3, ●:LH4(Seko et al. 11)を改変)。図4 スーパーコロニーごとに算出した食性幅(Seko et al. 11)から抜粋)。●は平均値, 箱は中央からそれぞれ50%, 75%, 95%ベイズ信用区間を表す。LHxといったハプロタイプ名はスーパーコロニー名とLH1と比較的そうでないスーパーコロニーが定着す2626ず, 互いを同じスーパーコロニーのメンバーと認識した10)。もちろん, その他のハプロタイプを有するスーパーコロニーも存在するものの, 侵入地域数はLH1に比べて圧倒的に少ない(図2)。これらのことから, アルゼンチンアリは, スーパーコロニーごとに侵入成功の程度が著しく異なる種であると考えられる(以降, して扱う)。そこで筆者は, 本種のこのような性質に着目し, 世界的に成功するLH1とその他のスーパーコロニー間で侵略性にかかわる形質を比較すれば, 種間差を排除した形質比較が可能になるのではないかと考えた。 本稿では, LH1とその他スーパーコロニー間における侵入成功の違いに着目し, 比較することで種間差を排除し, 侵略性を助長しうる形質の検出を試みた研究について紹介する11)。なお, 本研究では侵入成功に有利な可能性のある「食性の多様度(以降, 食性幅)」をスーパーコロニー間で比較する形質として採用した。4. スーパーコロニーごとの食性幅と侵入成功の関係 本研究では, 最も侵入成功するスーパーコロニーる兵庫県神戸市中央区のアルゼンチンアリを対象とした。当該地域は世界的にも珍しく, 数km2以内に4つのスーパーコロニーが定着する地域であるため12), 各スーパーコロニーの生息環境に大きな違いはない。そのため, それら4つのスーパーコロニーを研究対象とすることで, 周辺環境の影響を可能な限り排除することができると考えた。 各スーパーコロニーから働きアリを採集し, 食性幅を定量するため, 働きアリの体組織中に含まれる炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)を測定し(図3), RのパッケージSIBER13)を用いてスーパーコロニーごとの食性幅を推定した。また, 本種の採集地域に存在するエサ資源中に含まれるδ13C・δ15Nの多様度も同様に推定することで, 当該地域において各スーパーコロニーが獲得しうるδ13C・δ15Nに違いがないかを確かめた。 その結果, LH1が存在する地域におけるエサ資源中のδ13C・δ15Nの多様度は, LH2やLH3, LH4が存在する地域と統計的に有意な差はなかった。
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