Termite Journal 2023.7 No.1802727図6 各スーパーコロニーの侵入成功の程度と食性幅の関係(Seko et al. 11)を改変) 。図5 スーパーコロニーごとに算出した(a)δ13Cおよび(b)δ15Nのばらつき(Seko et al. 11)から抜粋)。●は平均値, 箱は中央からそれぞれ50%, 75%, 95%ベイズ信用区間を表す。LH1の採餌行動は他のスーパーコロニーよりも広範すなわち, 本研究で対象としたアルゼンチンアリのスーパーコロニーはすべて, 利用可能なエサ資源中のδ13C・δ15N多様度が等しい環境に定着していたと考えられ,各スーパーコロニーが獲得しうるδ13C・δ15Nに大きな違いはないことが示唆された。そのうえで, スーパーコロニー間の食性幅を比較したところ, LH1はLH2, LH3, LH4に比べて明らかに食性幅が広かった(図4)。また, 本種の食性幅を構成するδ13C・δ15Nそれぞれのばらつきを計算した。その結果, δ15Nのばらつきはスーパーコロニー間で大差なかったものの, δ13Cのばらつきはスーパーコロニー間で異なり, 食性幅と同様の傾向を示した(図4, 5)。したがって, スーパーコロニー間における食性幅の違いはδ13Cのばらつきによって規定されることが判明した。自然界におけるδ13Cは微小な環境変化に伴って変動する。そのため, 従属栄養生物におけるδ13Cのばらつきは多様な環境中の資源の利用を意味する。これを踏まえると, 最もδ13C のばらつきが大きかったLH1は, 他のスーパーコロニーの働きアリに比べ, 多様な環境中の資源を利用している可能性が高いと考えられる。すなわち, であることが示唆されるものの, 現時点での情報は不足している。LH1の食性幅の広さを解明するうえでは, 採餌に着目したスーパーコロニー間の行動比較を実施する必要があるかもしれない。 最後に, スーパーコロニーごとの食性幅と, 侵入国数に基づいて算出したの順位を侵入成功の指標として比較したところ, 両者は有意に相関することが判明した(図6)。以上を踏まえると, アルゼンチンアリ種内においては, スーパーコロニーごとの侵入成功と食性幅には明確に関連することが結論付けられた。他方で, 両者の因果関係は不明であり, 今後は両要因間の因果を検証・実証するような研究が必要である。
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