Termite Journal 2023.7 No.1802916日(木)に福岡大学及び九州大学医学部百年講堂に1. はじめに 第73回日本木材学会大会が2023年3月14日(火)~おいて開催された。最終日である16日(木)の午後は合計13の研究会で見学会や講演会といったイベントが催されていた。シロアリと関連が深い生物劣化研究会では、農林水産省 門司植物防疫所の梅本広寿氏を講師に迎え「輸入木材の検疫について」と題した講演会が開催された。 研究会に先立ち行われた連絡会(活動報告会)では、今後のテーマや方向性を議論する資料として、過去の研究会で取り上げられた講演会テーマ等が紹介されたが、生物劣化研究会が発足当初から長きにわたって、木材腐朽菌やカビによる分解・汚染、シロアリをはじめとする木材害虫による食害など、木材の生物劣化に関わる生物の生態や生理、その防止技術や診断技術に関する研究開発など、多岐にわたる最新の情報を提供してきたことが伺い知れた。そのような生物劣化研究会が、2023年春季研究会の講演会において「輸入木材の検疫について」というテーマを選んだ理由を研究会の会告から抜粋する形で紹介したい。会告では次のように記されている「物流に伴う病害虫の移動は国際的な問題であり、我々に身近なイエシロアリも世界侵略的外来種ワースト100に選ばれ世界中で猛威を奮っている。加工された木材を扱うことが多い我々の分野では、海外渡航時以外で輸出入に伴う検疫を意識することは少ないかもしれない。しかし、乾材害虫は加工木材に潜伏し移入されることが指摘されており、外来種対策という点においても、木材の生物劣化の対象と輸入検疫はとても関連が深いといえる。春季生物劣化研究会では、門司植物防疫所から講師を迎え、国内へ侵入する病害虫の水際対策である日本の植物検疫がどのように行われているのか、そして、輸入木材の検疫、その他植物検疫に関して広範にご講演頂く」。 しろあり防除に関わる皆様は、例えば、輸入家具などから被害が生じているアメリカカンザイシロアリや森林研究・整備機構 森林総合研究所 神原広平ニシインドカンザイシロアリ、西日本において被害の拡大が指摘されているアフリカヒラタキクイムシ、関門海峡の両沿岸域に局所的に分布するカンモンシロアリなど、侵入害虫といわれる昆虫が身近に存在している。本誌174号でも国内流通に伴ったと推察されるオオシロアリの移動事例が紹介1)されているように、新たな侵入害虫に気づきやすい立場にあるといえる。 本稿では、2023年春季研究会の講演会「輸入木材の検疫について」について、要旨集や植物防疫所のホームページを参考に、その概要を簡単に紹介する。2. 講演概要 講演はまず植物検疫とはなにかという話題から始まった。いわゆる検疫と呼ばれるものは、人間の伝染病を対象にしたもので厚生労働省が管轄している。コロナ禍の3年を過ごしたばかりの私たちにとっては、海外渡航時のワクチン接種証明や渡航前後でのPCR検査による陰性証明、強化された水際対策など、ニュースで毎日のように飛び交っていた検疫に関わる言葉が記憶に新しいだろう。検疫の対象が動物の伝染病の場合は動物検疫となり、植物の病害虫の場合は植物検疫となり、それぞれ農林水産省の動物検疫所と植物防疫所が管轄している。 日本の植物検疫の歴史を振り返ると、明治以降に海外からの貨物に混じって農作物の病害虫が侵入し、国内の農業生産に大きな被害が生じたのをきっかけに、大正3年(1914年)に植物検疫が始まったそうである。昭和25年には植物検疫法が制定され、以降、幾度もの改正を繰り返しており、直近では令和4年5月2日に(令和5年4月1日施行)改正されたそうである(詳しくは植物防疫所HPをご参照ください2))。植物防疫法の第一章総則の第一条では、法律の目的が次のように記されている。「この法律は、輸出入植物及び国内植物を検疫し、並びに植物に有害な動植物の発生を予防し、これを駆除し、及びそのまん延を防止し、もつて農業生産の安全及び助長を図ることを目的とする」このよ情報Information日本木材学会生物劣化研究会2023年春季研究会に参加して
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