しろありNo180
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Termite Journal 2023.7 No.1803030うに、植物防疫法で規制の対象となる動植物は、輸出入されるものだけでなく、国内にもあることをご存知だろうか。国内では南西諸島や小笠原諸島が該当地域であり、深刻なイエシロアリ被害で行政主導のシロアリ対策が実施されている東京都小笠原村では3)、アリモドキゾウムシやイモゾウムシなどの害虫とその寄主植物(サツマイモなど)などが、規制の対象となっている。国内外から物流に伴って必要となる植物検疫を担うのが植物防疫所だが、全国に本所が5か所、支所が16か所、出張所が35か所で合計56ヶ所設置されている。植物防疫所で行われる輸入検疫では、果物や穀類、種苗といった植物及び植物生産物などが検査を受けることになるが、このとき検査対象となるものは、輸入禁止品と検査不要品以外のすべて、というお話があった。検査不要品について、植物防疫所ホームページ4)の「輸入植物検疫の対象とならない植物について」を閲覧すると、製茶、発酵処理されたバニラビーン、乾燥マンゴーなどに加えて、製材、防腐木材、木工品、竹工品及び家具什器等の加工品、木材こん包材が該当することが分かる。これらは高度に加工されており病害虫の不着のおそれがないものであるため、検査不要として位置づけられるとのことであった。ただし、木材こん包材は消毒処理されていることが必須であることは重要な点と思う。植物防疫所ホームページには、木材こん包材に関する国際基準などが詳細に記されたリンクが整備されているので興味のある方はご覧頂きたい5)。ご講演中には、船上で行われる穀類の検査、青果物や種苗の検査の様子を示した写真や病害虫の同定診断技術についてご説明頂いたが、非常に綿密なチェック体制にあることが伝わってきた。また、木材の検疫では水面貯木場や陸上土場での丸太の検査の様子に加えて、木質ペレットの検査が紹介された。木質ペレットについては一見加工品のようだが、検査対象品であることを知ることができた。講演後の質疑応答の際に、水面貯木場に関して「高速道路から見えるが最近は丸太を見かけない」といった質問が出たが、後述のとおり木材の輸入量が減少しているので、現在はほとんど利用されていないということであった。 続いて、植物を日本へ持ち込む際には、輸出国政府機関により発行された検査証明書が必要であることが紹介された、この証明書が添付されていることを確認したうえで輸入検査が受けられる体制にあるということであった。令和5年4月1日に上述の改正植物防疫法が施行されたことで、中古農業機械といった物品についても輸入植物検疫の対象になったそうである。これらの中古農業機械は清掃されていることはもちろんであるが、検査証明書に土や植物残渣が付着していない証明を追記することが求められるということであった。輸出入において相手国が存在することが示されたところで、ご講演は国際的な植物検疫のルールや枠組みといった話題へと進み、WTO(世界貿易機関)・SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)やIPPC(国際植物防疫条約)、ISPM(植物検疫措置に関する国際基準)についてご説明頂いた。 ご講演は輸入木材の話題にうつり、まずこれまでの検査実績が紹介された。輸入木材は輸入量の減少に伴い、平成9年(1997年)に2,060万m3あった検査実績が、平成21年(2009年)には415万m3となり、令和3年(2021年)は263万m3へと推移したそうである。検査量の減少に関わらず、消毒される木材量の割合はほとんど変わらず、検査された木材の多くは消毒されるということであった。続いて、木材から発見された害虫として、南洋材、北洋材、米材、中南米材、アフリカ材、さらに木材こん包材で発見され記録された害虫をご紹介された。一部和名がついていた種については、そのほとんどがキクイムシ類であったと記憶している。また、木材こん包材では、パレットからナガシンクイムシ類の一種が見つかったこともご紹介されていた。最後は、輸出木材の検査実績について紹介された。平成9年に275百m3(輸入木材と単位が異なることに注意)であったものが、平成21年に942百m3となり、令和3年は14,875百m3ということであった。検疫は輸入国側が対応すべきことが基本となるそうだが、輸出国となる際は輸出相手国によって求められる対応が異なってくるそうで、例えば、近年の日本の輸出木材においては消毒が求められており、令和3年は検査量の8割以上が消毒されていた。 ご講演後は質疑応答の時間が設けられていたが、予定時間を大幅に上回るたくさんの質問があった。細かい質問内容は割愛するが、梅本氏からは一つずつとても丁寧なご回答があった。植物防疫所ではいわゆる検疫という業務だけではなく、環境負荷の少ない消毒技術や昆虫の同定診断技術といった研究活動も継続して実施されていることが分かった。聴講する機会の少ない内容だけに、興味のつきない講演会であった。

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