1Termite Journal 2023.7 No.1801.はじめに熱帯や亜熱帯の国々では, シロアリをはじめ, ハチ,甲虫, コオロギ, バッタなど約2000種の昆虫が食料として消費されている1, 2)。また, 少なくとも45種のシロアリがアフリカ大陸, アメリカ大陸やアジア大陸の29の国々で食料および飼料として広く利用されている3)。主にシロアリの有翅虫, 職蟻, 兵蟻が食用とされ2, 4),女王が食用とされる例5)も知られている。我々の研究室では, イエシロアリ(Coptotermes formosanus)とヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)の栄養価6),タカサゴシロアリ(Nasutitermes takasagoensis)とタイワンシロアリ(Odontotermes formosanus)の栄養価7)を分析し, タンパク質と脂質の観点からこれらのシロアリが優れた食料あるいは飼料となり得ることを報告し, その後イエシロアリとヤマトシロアリの脂質含有量が室内飼育コロニーと野外コロニー間で大きく異なることを報告した8)。この様にシロアリは優れた食料となる可能性を秘めているものの, トロポミオシン(tropomyosin)やアルギナーゼ(arginase)など甲殻類アレルギーの原因となるタンパク質と相同性を有するタンパク質が含まれていると予測されるため8),食物アレルギーの発症に注意する必要がある9)。 ベナン共和国(アフリカ)や南アフリカ共和国(アフリカ)の野外で採集された, Macrotermes属あるいはOdontotermes属シロアリの有翅虫から, 全米医学アカデミーに定められた1日当たりの耐容上限量10)の50~60倍を超えるMn(マンガン)が検出される事例や11),ジンバブエ共和国(アフリカ)と南アフリカ共和国で市販されているMacrotermes属シロアリの有翅虫から1日当たりの耐容上限量の60倍を超えるMnや, 兵蟻から1日当たりの耐容上限量を超えるNa(ナトリウム)が検出される事例4)が報告され, 食用とするシロアリのミネラル含有量に対する注意喚起がなされた。また, これらの事例では同一種のシロアリ間でミネラル含有量に大きなばらつきがみられ, 1種シロアリのミネラル量を評価するには複数のコロニーから採集したシロアリのミネラル含有量を測定する必要があることが示唆されている。 国内に生息するシロアリのミネラルに関しては, イエシロアリとヤマトシロアリをはじめコウシュンシロアリ(Neotermes koushuensis), ダイコクシロアリ(Cryptotermes domesticus), アメリカカンザイシロアリ(Incisitermes minor), ネバダオオシロアリ(Zootermopsis nevadensis), タイワンシロアリ, タカサゴシロアリの職蟻または擬職蟻の大顎におけるAl(アルミニウム), Ca(カルシウム), Cl(塩素),Cu(銅), Fe(鉄), Mn, K(カリウム), P(リン),S(硫黄), Si(ケイ素), Zn(亜鉛)の分布が報告されている12)。また, イエシロアリ職蟻と兵蟻に含有されるAl, Ca, Cl, Cu, Fe, K, Mg(マグネシウム), Mn, Na,Ni(ニッケル), P, S, Si, Zn量を, 未解剖の個体, 解剖した頭, 腸, 腸を除いた体, 大顎(兵蟻のみ)に分けて定量した結果が報告されている13)。 ここでは, シロアリを食料として利用するという観点から, イエシロアリとヤマトシロアリの職蟻と兵蟻に含有される必須ミネラル16元素(多量ミネラル7元素Ca, Cl, K, Mg, Na, P, Sと微量ミネラル9元素Co(コバルト), Cr(クロム), Cu, Fe, I(ヨウ素), Mn, Mo, Se(セレン), Zn), これらの必須ミネラル以外の元素で全米医学アカデミーの食事摂取基準DRIs (Dietary Reference Intakes)に耐容上限量が定められている3元素(B(ホウ素), Ni, V(バナジウム))10), シロアリなど昆虫で定量されている5元素(Al, As(ヒ素), Ba(バリウム), Pb(鉛), Si)11, 14, 15)の量を, それぞれのシロアリの3コロニー間で比較した結果を報告する。2.材料および方法2.1 シロアリ 兵庫県加古川市の神社で巣を掘り起こし約25年間研究室で維持したコロニー, 鹿児島県日置市の松林で採集し約1年間研究室で飼育したコーホート(cohort, 近畿大学農学部 板倉修司Reports報文シロアリのミネラル含有量と食事摂取基準との関係Relationship between termite mineral contents and dietary reference intakes
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